人類と感染症9 スペイン風邪は第二次大戦の要因
Japan In-depth / 2020年4月22日 11時0分
一方、フランスのクレマンソー首相、イギリスのロイド・ジョージ首相はともにドイツへ強硬な姿勢だった。
とりわけクレマンソー首相は手厳しい。ドイツと国境を接し、甚大な被害を受けただけに、この際、叩き潰してやろう。そんな考えだった。ドイツに巨額の賠償を求めた。さらに、軍事力を制限することを主張した。二度とドイツが軍事大国にならないようにするためだ。
写真)クレマンソー首相
出典) Archives fédérales allemandes
当時はパリ講和会議出席といっても、アメリカからパリに行くには船旅だ。ウィルソン大統領は3月14日パリに到着し、その後、連日のように、クレマンソー首相、ロイド・ジョージ首相らと会談していた。
しかし、双方の対立はエスカレートするばかりだった。議論だけでなく、お互い罵倒しあうようになった。クレマンソー首相はウィルソン大統領のことを「ドイツの手先」と呼び、部屋を出ていく始末だった。
ウィルソン大統領はパリ講和会議を切り上げて帰国する構えも見せていた。そんな中、起きたのは、前述した4月3日の会議の異変。すなわちウィルソン大統領の感染だ。連日の会議で疲れていたからかもしれない。また、体調を崩していたクレマンソー首相から、うつったという見方もある。
この週には、パリでは、1週間で、52人がインフルエンザと肺炎で亡くなっている。平年を大幅に上回っている。スペイン風邪が流行していたとみられる。
ともあれその後、ウィルソン大統領は、会議を欠席。結局、フランス・イギリスの意見に押し切られた。ウィルソン大統領は病床ですっかり気力を失い、受け入れたのだ。4月8日午後に会議に再び出席したが、完全に「壊れた」状態だった。
「今のような、これまでと雰囲気がまったく異なる大統領は、いまだかつて見たことがない。ベッドに横たわっているときでさえ、彼は奇妙なことを口走っている」(ウィルソンの秘書官、ギルバート・クローズ『史上最悪のインフルエンザ』P243)。ウィルソン大統領の左目と顔の左半分はピクピクひきつり、下まぶたは垂れ下がったままだったという証言もある。
スペイン風邪にかかり、自分で判断できないような状態になった可能性がある。専門家によれば、症状が回復しても、脳にダメージを与え、1、2カ月間うつ状態が続き、物忘れや決断力の欠如などが起きることもある。
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