全米デモ、ロス暴動程ではない
Japan In-depth / 2020年6月9日 23時45分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#24」
2020年6月8-14日
【まとめ】
・ロス暴動と今回のフロイド事件とは比較にならない。
・今回の反対デモは中心的「指導者」を持たない。
・米国は各州と州内はそれぞれ多様で、『全米』の表現はおかしい。
5月25日の週から始まったアメリカ大都市での抗議運動が三週目に入った。日本のメディアも「全米各地で抗議デモ続く ワシントンでは最大規模」などと大きく報じるようになった。白人警官に事実上殺されたアフリカ系市民ジョージ・フロイドを悼み、警察の過剰警備を批判するこれらの「草の根運動」を天邪鬼の筆者は次のように見る。
1、ワシントンでの最大規模デモ?
日本の某テレビ局は「6日、首都ワシントンでこれまでで最大のデモが行われるなど全米各地で抗議デモが行われた」などと報じていたが、彼らは一体何を見ていたのか。確かにデモの規模は半端じゃなかったかもしれぬ。だが、1992年にロサンゼルスで起きた大暴動・大略奪事件に比べれば、今回の抗議運動は実に整然としたものだ。
あのロス暴動は、前年に起きたロドニー・キング暴行事件で起訴された警官たちが無罪評決となったことからアフリカ系を中心に民衆の不満が爆発したもの。筆者はワシントン大使館勤務だったので、当時のことは鮮明に覚えている。特に衝撃を受けたのはアフリカ系の暴徒が韓国系移民の店舗を狙い撃ちで略奪したことだった。
今回は一部若手識者が「1960年代以来の盛り上がりだ」などとコメントしていたことにも驚いた。ジョージ・フロイド事件を1960年代と比較するのは、当時命を賭して公民権のため戦ったMLキング牧師など偉大な運動家に対し失礼ではないか。筆者にとっても、1960年代の公民権運動は、既に一世代前の世界の話なのだから・・・。
▲写真 Los Angeles Riots, 1992 出典:Flickr; Ricky Bonilla
2、指導者のいない抗議デモ?
1960年代と最も異なる点は、今回の運動が中心的「指導者」を持たないことだ。自然発生的であることは、良く言えば柔軟だが、悪く言えば抗議の目的と落し所が必ずしも明確ではないということ。こうした手作りの抗議運動にとってトランプ政権ほどやりにくい相手はない。恐らく、トランプ氏にはこの問題を収束できないだろう。
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