奇妙なり、「東京アラート」
Japan In-depth / 2020年6月11日 23時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・なぜ分かり易い「警報」ではなく、「アラート」を使うのか。
・自然に行動起こせる都民いるのか。米女性「東京ネズミの事?」
・米国でも惨劇。相手に通じない「警告」は逆に危険生じさせる。
中国発の新型コロナウイルス大感染の東京にいると、連日連夜、「東京アラート」という言葉にさらされる。そのおおまかな意味はふつうの日本国民、あるいは東京都民ならもう知っている。だがそれでも抵抗を禁じえない。なぜ「警報」という、わかりやすい日本語を使わないのか。
私はアメリカで暮らした年月が長い。新聞記者として首都ワシントンで通算30年ほども過ごしてきた。いまもワシントンが勤務地である。だから英語の環境のなかで暮らしてきた。英語にもなじみが深い。親近感もある。だがこの「東京アラート」という英語の使い方には、なんとも気持ちの悪い忌避を覚える。
「アラート」の原語はもちろん英語の「alert」 だろう。一般に「警報」「注意報」「警告」という意味である。だから「アラート」とは人間に一定の行動をとることを指示するメッセージだといえる。たとえば、「動け」「止まれ」「気をつけろ」という、相手に対して肉体的、心理的な新たな反応を求める言葉である。だからその言葉は相手の肉体や精神に瞬時に、自然に伝わらねばならない。
戦場で戦闘集団の1人が敵の狙撃の姿勢をみて、仲間に「伏せろ」という警報を送ることがアラートに等しい。あるいは火事が起きる。津波が押し寄せる。そんな危機に「避難せよ」「逃げろ」と相手に肉体的な行動を求めることもアラートだろう。だからその警告の伝達は受ける相手に一瞬にして認知される自然の信号でなければならない。
日本人が英語で「evacuate(避難せよ)」とか、「run away(逃げろ)」といきなり告げられても、そのとおり瞬時には肉体は動かないだろう。「alert」という言葉にも日本語にすれば、そんな欠陥があるわけだ。自分の言葉、自国の用語ではない表現にはそんな瞬時の効果は期待できない。警告がすぐに伝われなければ、当然、危険が生まれる。
▲画像 小池百合子・東京都知事の記者会見(2020年6月5日) 出典: 東京都ホームページ
アメリカ南部のルイジアナ州バトンルージュという街で1992年10月にそんな悲劇が起きた。日本人の留学生がハロウィーンのパーティーに行こうとして、誤った家の構内に入ってししまった。家の主が不審者だと思い、銃を持って、玄関の外に出て、声をかけた。「Freeze」という言葉だった。「動くな」という意味だった。ふつうのアメリカ人であればだれでもわかる切迫した警告の言葉だった。すぐその場でそのまま止まれ、一切、動くな、という意味である。
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