対策の手際で別れた明暗ポスト・コロナの「勝ち組」メルケル独首相
Japan In-depth / 2020年6月24日 11時0分
ともあれ、35歳まで一般市民にすぎなかった彼女の人生は、他の多くのドイツ人と同様、1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊したことから、大きく変わった。
東欧民主化の一翼を担った「民主主義の出発」という政党に加入し、政治の世界に足を踏み入れたのである。のちにヘルムート・コール率いるCDU(キリスト教民主同盟)に加入した。
▲写真 ヘルムート・コール氏 出典:パブリックドメイン
1990年にはドイツ再統一が実現し、翌年の総選挙で当選すると、1年生議員の身で入閣。これについては、
「統一ドイツの初代国家元首となったコールとしては、東ドイツ出身の女性を重用することで、自らの求心力を高めたかったのだろう」
と、衆目が(サンドラ・ヘフェリンさんも含めて)一致している。
サンドラ・ヘフェリンさんは、こんなことも言った。
「個人的な意見ですけど、コロナ対策が的確だったことと、もうひとつ、あの方の功績は、女性政治家をファッションで評価する風潮をなくしたことだと思います」
ドイツでも、女性向けの雑誌では、著名人のファッションを意地悪く評価する傾向があって、メルケル首相は当初、ひどい言われようだったらしい。ところが、2005年に首相に就任して以降、どこへ行くにも黒のパンツルックに赤系統など暖色のジャケット、というスタイルで押し通したことから、いつしか今の日本の若い人たちの言い方を借りれば「ダサかっこい」という評価になってしまった。このため女性誌も、政治家に関してはファッションについてあまり書き立てなくなったというのである。
スーパーで普通に買い物をするという暮らしぶりで、利権とか豪奢な生活とは無縁な人柄も、今回あらためてクローズアップされた。
彼女に対しては、もちろん批判も多い。
とりわけ中東・アフリカからの難民受け入れに寛大であったことから、右派の強い反発を買った。
2015年には、100万人を超える移民・難民にドイツ定住を許可したが、その年の大晦日、ケルンでおよそ1000人の中東系の男たちが、多くのドイツ人女性に集団で性的暴行を加える事件が起き、それまでメルケル首相を支持していた中産階級のドイツ人女性が、大挙して抗議行動に立ち上がるという事態も起きた。2021年までの任期を全うできないのではないか、とまで言われた最大の理由もこれである。
この動きに乗って票を伸ばしたのが、極右のAID(ドイツのための選択肢)だったが、新型コロナ禍に直面して、なんら目新しい対応策を打ち出すことができず、支持率を大きく下げてしまった。
メルケル首相は、今次の事態を「第二次世界大戦以来、最大の試練」と称しているが、確かに事態はきわめて深刻だ。そのような中、求心力を失う指導者もいれば、逆に高める指導者もいるというわけだが、どちらも理由があってのことなのである。
トップ写真:メルケル首相 出典:Flickr; EU2017EE Estonian Presidency
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