著名学者のトランプ論を断ず
Japan In-depth / 2020年6月27日 18時50分
もちろん言論は自由である。だが田中氏の場合はやや事情が異なる。彼の自民党政権、安倍政権への寄り添い方が普通ではないからだ。自民党政権の各省庁、とくに外務省からは常時、審議会、諮問委員会の類のメンバーとして招かれ、東京大学の副学長から事実上の政府機関の独立行政法人の国際協力機構(JICA)理事長に任命された。現在はこれまた国立の政策研究大学院大学の学長である。日本国際政治学会理事長をも務めた。
安倍政権にそんなべったりの政治的な学者が安倍政権の最重視する同盟国アメリカの現職大統領をアメリカ国民の敵呼ばわりするのだから奇妙である。
それもまた学問や言論の自由だろう。だが私が田中明彦氏のこの発信をあえて批評の対象にとりあげた理由はその内容の事実の認定や理屈の運び方があまりに粗雑かつ乱暴、偏向している点にある。
田中氏の独善的なトランプ断罪はかなり長い寄稿の記事の末尾での総括だった。だがその寄稿の一文が穴ぼこだらけなのである。明らかに大きな事実の誤認があり、故意とも思われる歪曲もあった。
この人ははたしていまのトランプ政権下のアメリカをどれほど理解しているのか、と疑わされるのである。
だから私自身のトランプ政権下でのこの3年半を含めての長年のアメリカ政治考察の累積を踏まえ、田中氏の描くアメリカ像のゆがみを指摘したいと思った。日本にとっての最重要な国家アメリカの実情が大きくねじ曲げられ、偏ったまま日本側一般に広まっていくことは危険だからでもある。
繰り返すが、田中氏は「トランプ大統領こそが米国社会にとってコロナウイルスよりも経済不況よりも、人種差別よりも最大の脅威」だと断じていた。民主的でオープンな選挙によってその国の国民の多数派から選ばれた元首をいきなり「その国の社会の最大の脅威」として切り捨てるのは、あまりに乱暴であり、非礼である。アカデミックな要素をツユほども感じさせない情緒的な誹謗だといえる。しかも事実としてまちがっている。
なぜならトランプ氏はアメリカ国民多数に支持されたから大統領になったからだ。しかもいま現在も多数のアメリカ国民が彼を支持している。反トランプ勢力は大統領を敵視し、脅威とみるかもしれないが、それでもなおコロナウイルスや人種差別や経済不況よりもトランプ氏が危険だとか脅威だと断定する向きはまずいない。そんな断定に客観的あるいは科学的な根拠はなにもない。
▲写真 トランプ大統領 出典:Official United States Air Force Website
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