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国家安全法「国外犯」規定は国際法違反にあらず

Japan In-depth / 2020年7月14日 20時10分

国家安全法「国外犯」規定は国際法違反にあらず


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)


「宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#29」


2020年7月13-19日


【まとめ】


・国家安全維持法の「国外犯」規定は、国際法上違法ではない。


・日本の刑法にも「国外犯」規定はある。


・香港と「犯罪人引き渡し条約」はないので「犯罪人」を日本で保護することは可能。


 


6月30日、国家安全維持法が香港で施行された。同法制定経緯の法的問題点については既に書いたので繰り返さない。日本の報道の多くは、同法が定める違法行為を「外国人が香港以外の場所で行った場合も、香港・中国側が求めれば、拘束・移送される恐れがある」と批判する。でも、それって、国際法違反なのだろうか。


確かに、同法が定める「国家分裂罪」「国家政権転覆罪」「テロ活動罪」「外国又は境外勢力と結託し国家安全に危害を及ぼす罪」は、同法第38条により「香港永住権保有者、香港籍法人、香港滞在者、香港籍船舶および航空機内だけでなく、香港域外にいる非香港永住権保有者にも適用」される。えっ、外国人もか、と誰もが思うだろう。


日本にはこうした「域外適用」「国外適用」を批判する論調が少なくない。しかし、本当にそうなのか。法律を少しでも学んだ者には、これがいわゆる「国外犯」の規定であることは明白だろう。一般に「国外犯」とは、ある国の刑法上犯罪となる行為がその国の領域外で行われた場合でも、その国の刑法が適用されるような犯罪を指す。


「国外犯」の概念自体は中国の専売特許ではない。日本刑法にも「国外犯」の規定はあるからだ。具体的には、刑法2条の内乱に関する罪、外患に関する罪、通貨偽造、詔書偽造、公文書偽造、有価証券偽造の罪、支払用カード電磁的記録に関する罪などは、国籍を問わず、日本国外で罪を犯したすべての者に適用される。


また、刑法3条は放火の罪、私文書偽造の罪、強制わいせつ、殺人などが日本国外において罪を犯した日本国民に、同3条の2では強制わいせつ、強制性交、殺人、傷害、傷害致死、逮捕監禁、略取、誘拐及び人身売買の罪、強盗などにつき、日本国外で日本国民に対し罪を犯した日本国民以外の者に、それぞれ適用される。


このような「国外犯」の規定自体は国際法上決して違法ではない。違法ではないからこそ、先週オーストラリアの首相は、「香港との犯罪人引き渡し条約を停止する」と言わざるを得なかったのだ。香港での「国外犯」規定が有効であればこそ、その適用を事実上拒否するために、「犯罪人」とされた人物の「引き渡しを拒否」するのだ。


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