元々怪しいオリンピズム(上)嗚呼、幻の東京五輪 その4
Japan In-depth / 2020年8月1日 23時0分
これは、どちらかが間違いというのではなく、両方の要素があったのだろうと私は思うが、いずれにせよ若いと言うよりまだ幼い時期から、古代オリンピックへの関心が芽生えていたことは間違いない。
コレジュを出てからの進路だが、前述のように貴族は世襲の特権を奪われていた上に、長男でもない彼のような立場だと、軍人になるか、法律を学んで司法関係者か官僚になる道を選ぶケースがほとんどだった。
クーベルタンもご多分に漏れず陸軍士官学校に進むが、ほんの数カ月で中退してしまう。ナポレオン戦争の余波で。粗暴であることをむしろ美徳と考えるような風潮が、士官候補生にまで広まってしまい、そのような学校生活になじめなかったからだと言われている。
両親は、軍人が駄目なら法律家に……と勉強のやり直しを切望していたようだが、本人の関心は、次第に教育に傾いていった。
1883年、20歳のクーベルタンは英国に渡り、各地のパブリックスクールを訪問した。中高一貫の私立校で、裕福な家庭の子弟が集う。
ここで彼は、当時のフランスの中等教育が知識偏重であったのに対して、英国のパブリックスクールが心身ともに鍛え上げる、日本流にいえば「文武両道」の教育を行っていることに感銘を受けた。
とりわけラグビー校を訪ねて知った、ラグビー・フットボールには感じ入ったようで、後に審判の資格を取得し、パリでの公式戦で笛を吹いたほどである。
こうした経験を通じて、青少年の教育におけるスポーツの有用性を信ずるに至り、近代オリンピックの開催に尽力した……というのが「公式」に伝わっている話なのだが、実は異説も多い。
なぜなら、前述のように彼がまだ10代前半の当時より、古代オリンピックに関心を持つ人はヨーロッパ各地に大勢現れており、
「青少年の体位向上と地域コミュニティーの活性化を目指すオリンピア競技会」
は、これまた各地で(具体的にはイングランド、ドイツ、スウェーデンなど)開催されるようになっていたのである。
とりわけイングランドでは、北西部のコッツウォルズ地方で開かれる大会が、当時すでに毎年盛況であった。ここは何年か前にNHKの特集番組で「世界一美しい村」と紹介されたこともあるほど風光明媚な田園地帯だが、各種のイベントも盛んで日本人観光客の注目度も年々高まっている。
『オリンピックの真実』(佐山和夫・著 潮出版社)という本の中では、クーベルタンはこのコッツウォルズでの「オリンピア競技会」を実際に見て、近代オリンピックの想を得たに違いない、との説が開陳されている。
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