朝日、「米中関係」報道の錯誤
Japan In-depth / 2020年8月8日 7時0分
トランプ大統領はアメリカのこんごの国家安全保障に関して2017年12月中旬に「国家安全保障戦略」を発表した。アメリカや自由世界の安全に脅威を与える存在として中国を位置づけ、その中国への対応を明確にした重要政策文書だった。同戦略は中国をアメリカの安全保障、利害、価値観などを侵食する危険な存在だと定義づけ、以下のように述べていた。
「その中国との競合ではアメリカは過去20年以上もの『相手と
の関与、そして相手の国際秩序やグローバル交易への導入がその相手を温和で信用できるパートナーに変える』という推測に基づく政策を再考しなければならない。なぜならその政策は間違っていたからだ」
対中関与政策の失敗の宣言だった。放棄の宣言でもあった。
トランプ大統領はそのすぐ後の2018年2月の演説で改めて「アメリカが中国を世界貿易機関(WTO)に加盟させたことが間違いだった」とまで述べて、歴代政権、とくにオバマ政権の対中政策を非難して、関与政策の失敗を明言した。
トランプ政権の中国政策の言明としてはさらに2018年10月のペンス副大統領の演説、さらに2019年10月の同副大統領の演説、その直後のポンペオ国務長官の演説などが支柱となってきた。これら主要対中政策演説の最大特徴は関与政策の失敗の断定とその放棄の宣言だった。
ペンス副大統領やポンペオ国務長官はこの3年近く、対中関与政策の排除を宣言し続けてきたのである。そしてトランプ政権としてはその関与政策の否定を象徴する中国への抑止や制裁の政策を次々に打ち出してきたのだ。
その具体例はアメリカ側からみての中国の不公正経済慣行の追及、南シナ海での無法な領土拡張への抗議と抑止、チベット、ウイグル、香港での人権弾圧への種々の制裁、アメリカ国内での中国側のスパイや違法政治工作の摘発などなど、数えきれないほどである。
しかもトランプ政権のこうした関与政策放棄の上での強硬措置はほとんどがコロナウイルス感染拡大の前に実行されてきた。
朝日新聞の報道に従うと、トランプ政権はコロナウイルス感染によって対中強硬政策へと傾き、いまの段階でもなお関与政策を放棄すべきかどうかの「岐路」にある、というのだ。
この「報道」と事実のくいちがいはあまりに明白である。この「報道」はトランプ政権がいま「岐路」に立ったというのだから、政権発足以来のこれまでの3年8ヵ月ほど、その対中政策は従来の関与政策だったことにもなる。
▲写真 朝日新聞の販売店 出典)flicr; MIKI Yoshihito
朝日新聞は7月15日朝刊の別の記事ではトランプ政権の対中強硬策は「演出」なのだとも断じていた。「トランプ政権、『対中強硬』続々演出 『脅威』強調、大統領選見据え?」という見出しの記事だった。
「演出」とは事実とは異なるみせかけだけ、という意味である。演劇や映画のように実在しない出来事をあたかも実在するかのように装うことである。トランプ政権が実際に発効させた中国抑制の法律、条令は間違いなく実在する。米軍当局が中国の軍事膨張を抑えるために派遣した航空母艦2隻の出動も現実の出来事だった。それらがみな「演出」だというのならば、なにをか言わん、である。
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