金正恩の焦り 党大会前倒し
Japan In-depth / 2020年8月26日 11時0分
昨年末の7時間演説は、心臓疾患をはじめ様々な持病持ちの金正恩には相当こたえたようだ。4月11日以降、金正恩の健康は深刻な状況となり、4月15日には、欠かしてはいけない祖父の誕生日の錦繍山太陽宮殿への参拝も中止せざるを得なくなった。この時期に、多分何らかの集中治療を受けたと思われる。
その後の金正恩の活動は、それ以前とは全く様子が変わった。会議が中心となり、統治力維持で欠かせない現地指導はほとんどなくなった。これでは統治力が弱まるのは当然だ。
飛び出した国家情報院院長の「委任統治説」
ところがこうした状況の中で、韓国の国家情報院院長・朴智元(パク・チウォン)氏の「とんでも分析」が飛び出した。金正恩委員長がストレス解消と責任回避のために、金与正をはじめとしたキム・ドクフン総理、リ・ビョンチョル軍需担当副委員長、チェ・ブイル党軍事部長(注:3月から軍政指導部責任者)などに一部権限を移譲する「委任統治」を行っている。だが健康には全く問題はないと韓国国会で報告したのだ。
▲写真 朴智元氏(真ん中) 出典:Flickr; Republic of Korea
いま韓国の北朝鮮専門家の間では、嘆きの声が広がっている。こうした認識が国家情報院全体の認識であるとしたら、国家情報院の劣化は、想像以上に進んでいるとの嘆きだ。
そもそも北朝鮮の政治体制は「首領絶対独裁体制」で、その統治方法は「首領の唯一的領導」すなわち最高指導者の絶対権力による唯一的統治である。それが北朝鮮の最高規範である「党の唯一的領導体系確立10大原則」の要求だ。
したがって北朝鮮では、統治という言葉や「指導」と言う言葉は、金正恩以外は使えない。だから最高幹部が現地で指導を行う時は「了解」、すなわち金正恩に報告するための「調査」との表現を使うのである。いま金正恩に健康不安がある状態で、負担を軽減するために、金与正をはじめとした一部の最高幹部に、責任を明確にして裁量権を拡大することがあっても、金正恩の承認なしで権限を行使する「統治権限」の委任は絶対にありえない。それは首領独裁体制の崩壊をもたらすからだ。
金正恩体制の危機が深まる中で、朴智元氏国家情報院が、何らかの政治的思惑でこうした情報を国会に報告したとするならば、絶対言ってはいけない国家情報院の政治的利用となる。それこそが国政の壟断(ろうだん)といえる。
第二の狙いは、小手先の対策では抑えきれない国民の反発を、党大会という最大のイベントで体制の一新をはかり、抑え込もうとしていることだ。
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