敵基地攻撃は予防攻撃と呼ぼう
Japan In-depth / 2020年9月3日 18時0分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・「敵基地攻撃能力」は「危険な軍拡」というレッテルを貼られる。
・「敵基地攻撃能力」は「予防攻撃能力」である。
・相手の攻撃が確実になった場合の予防措置、“pre-emptive strikes”と理解すべき。
日本の最近の安全保障論議では「敵基地攻撃能力」という言葉が主要なテーマとなった。この論議での日本にとっての敵基地攻撃能力とは、日本にミサイル攻撃をかけてくる可能性のある中国や北朝鮮に対して、その攻撃の危険が起きた時、あるいは起きることが確実となった時に日本側からもその敵のミサイルを破壊できる能力だと言えよう。
その能力を持つべきか否かという議論だった。本来はあくまで防衛的、抑止的な措置を巡る議論だったのだ。
しかし「敵基地攻撃」と簡単に述べてしまうと、とにかく他の国にこちらがいきなり攻撃をかけることをも意味しかねない。だからこそ日本国内でもすぐに反対論が起きたのだろう。もっともその種の反対論には日本がいかなる形で防衛能力を高めることにも「危険な軍拡」だなどという不当なレッテルを貼って、阻もうとする勢力の声が存在することは明白となっている。
だが日本はすぐ目の前に迫った軍事的な脅威や危険に対して、あまりに無防備である。日本に届くミサイル、あるいは日本への照準を合わせるミサイルということならば、北朝鮮は数百基単位を保有する。中国の場合は1,900基という数字が語られる。
だがそんな危険に対して日本は北朝鮮にも中国にも届くミサイルの保有はゼロなのだ。憲法9条に由来する自縄自縛の専守防衛という概念により、他国に届くミサイルは持ってはいけないのである。
万が一、他国が日本にミサイルを撃ちこんで破壊と殺戮を起こし、さらに第2、第3の攻撃をかけてくることが確実な場合でも、日本にはそれを知っていても、止める手段がない。あるいは日本にミサイルを撃ち込めば、必ず反撃されて自国も被害を受ける、だから止めておこう、という他国への抑止の能力も日本は持っていないのだ。
こんな異様な状況を変えて、普通の国家並みに自国への攻撃を防ぐための抑止能力を持とうというのが今回の自民党内などで起きた議論の趣旨だろう。日本への攻撃が確実、あるいは切迫したときの、あくまでの抑止、防御の措置である。
だとすると、敵基地攻撃能力という表現は不正確だし、響きが悪い。そのままではとにかく他国にミサイルをいきなり撃ち込む能力だと誤解されてしまう。国際的にも誤解を招く。日本国内でも、いかにも日本が一方的に撃って出るという能力のように曲解され、国民の支持を得にくいことともなる。
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