「飯塚は死刑」と連呼する虚しさ 再論・「正義」の危険性について その1
Japan In-depth / 2020年10月23日 18時0分
同じソースで、故意犯でなく過失罪に問われた被告が事実関係を争うというのは、かなり珍しいことだとも聞いた(故意でなく過失だとの主張ならば、結構ある)。
この初公判と前後して、別の裁判の報道に接することとなった。
2018年、群馬県前橋市で、高齢者の運転する車が暴走して、女子高生2人が死傷する事故が起きたのだが、その原因は、当人が運転中に意識を失ったことであった。
そして今年3月、前橋地方裁判所において、
「意識を失うことは予測不能であった」
として無罪の判決が言い渡されたが、検察が控訴していた。その控訴審で、88歳の被告本人は出廷しなかったものの、弁護人を通じて、
「人生の最後に、罪を償いたい」
として、自ら有罪判決を求めたのである。
過去に、レイプ殺人で無期懲役を求刑された被告が、最終弁論で、被害者に死んでお詫びをしたいと述べ、裁判長に、
「慈悲あらば私を死刑にしてください」
と訴えた、という記事を読んだことがある。続報がなかったのだが、法制度上「被告が望むような判決」は考えることが難しいので、おそらく求刑通りの判決だったのだろう。いずれにしても、きわめて異例のことである。
この前橋市の事故でも若い命が失われたのだから、もはや取り返しはつかないのだが、加害者の対応としては、同じ高齢者でもずいぶん違うものだな、と思わざるを得ない。ちなみに、被告が無罪を主張しているのに弁護士が有罪を認めたなら、規約違反となる。さらに言えば、無罪であれ有罪であれ、一審の判決が控訴審で覆る例は、新たな証拠が採用された場合を除き、まず滅多にない。
やはり前にも述べたことだが、交通事故というものは、自分が被害者になる可能性が常にあるのと同様、加害者になる可能性もまた、常にある。
「飯塚幸三は死刑にすべき」
などと連呼するのが正義だと思っている人たちは、そのあたりの想像力が欠如しているのではないか。
被告の車がトヨタのプリウスであったことから、
「トヨタは飯塚を訴えるべきだ」
との意見もネット上では多く見られたが、これこそ余計なことである。
実は2009年から2010年にかけて、米国内でプリウスが暴走する事故が数件起き、訴訟沙汰に発展したことがある。この過程で、科学的な検証によって「プリウスは安全」とする公式発表までなされたが、トヨタ側は、顧客の遺族と争うことは会社にとってマイナスだとして、和解金の支払いに応じている。当時日本国内では、単なる「トヨタ叩き」ではないのか、といった声が聞かれたほどだ。
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