不妊治療の保険適用、弊害多し
Japan In-depth / 2020年10月24日 7時0分
さらに、厚労省は保険診療と自費診療の併用を禁止している。これを混合診療の禁止という。もし、併用したければ、保険診療の分まで全額自費で支払わねばならない。厚労省は、混合診療を規制する目的として、悪徳医師が情報格差を利用して患者に不適切な治療を強いるのを防ぐことなどを挙げているが、そのようなケースばかりではないだろう。
混合診療は本来、運用次第で患者の選択肢を増やす手段になる。医療が日進月歩で不確実であることを踏まえれば、むしろ一律に禁ずる方が弊害は大きい。厚生労働省が「正しい治療」を決めることはできないし、どこまでリスクをとるかは患者により異なる。治療は時間との勝負であり、柔軟に対応しなければ患者ニーズに応じられない。
ただ、現状では、このような意見は通らない。2011年10月25日、腎臓癌患者の清郷伸人氏が、保険診療のインターフェロン療法と保険外診療の活性化自己リンパ球療法の併用を希望して起こした裁判で、最高裁(大谷剛彦裁判長)は、混合診療の禁止を妥当とする判決を下した。その理由として、「保険医療の安全性や有効性の確保と財源面からの制限はやむを得ない」と述べた。
実は、日本は世界でもっとも不妊治療の盛んな国で、レベルも高い。少し古くなるが、国際生殖補助医療監視委員会が2018年に発表した報告によると、2011年に実施された生殖補助医療の回数は約27万件で、2位の米国の約12万を大きく引き離してトップだ。その数は、その後も増加し、2018年には約45万件に達する。
▲写真 お腹の中の我が子を慈しむ様子(イメージ) 出典pikist
わが国の不妊治療が世界最高水準なのは、健康保険が適用されないからだ。医療機関が独自に価格を設定できるため、患者満足度を上げれば価格に転嫁できるし、収益を増大すれば最新機器を購入でき、専門スタッフも雇用できる。同時に、不妊治療の専門医が増え、医療機関間の競争を通じてサービス内容・料金が多様化した。最近では成功報酬型料金体系を取り入れているクリニックが増え、患者から歓迎されている。
不妊治療は儲かった。だからこそ、こんなに数が増えた。ところが、最近はそうでもない。総合情報誌『選択』2019年10月号の「中国「不妊治療」一千万人の壮絶」によれば、日本の不妊症治療クリニックの数は、2000年の511から2010年には591に増加したが、2016年には604と伸び悩んでいる。近年は倒産するクリニックもあるらしい。厳しい競争の結果だ。
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