晴れることなきロス疑惑(下)再論・「正義」の危険性について その3
Japan In-depth / 2020年11月1日 11時0分
佐古田氏にしてみれば、保険金殺人の容疑が浮上した以上、どうして見逃せようか、という刑事としての正義感にしたがって構想したまでなのだが、警察組織としてみれば、これは組織の秩序を乱すスタンドプレーに過ぎない、ということになってしまう。結局この年、26年間奉職したロス市警を退職せざるを得なくなった。日本の読者には、今年20周年を迎えた『相棒』(TV朝日系)という刑事ドラマでよく描かれるパターンだと述べれば、大筋のところはご理解いただけるであろうか。
しかし佐古田氏は挫けることなく、それまでの捜査データを添えて再度検察に直訴。これが今度は功を奏して、検察の特別捜査官に任じられ、ついには史上初めての「日米合同捜査本部」の立ち上げに至るのである(1985年)。
その後の経緯は、前回紹介させていただいた通りで、三浦氏は2003年に最高裁で無罪判決を勝ち取る。
例によって余談だが、この間、自身の「疑惑」を書き立てたメディアや著述家を片っ端から名誉棄損で告訴し、本人によれば「勝率八割」で、多額の慰謝料を手にしてもいる。さらに余談を重ねてよければ、裁判所が支払いを認めた慰謝料は原則非課税だ。
その一方では、保険会社3社からは保険金返還請求訴訟を起こされ、結局2社に対しては敗訴、残りの1社とは「敗訴に等しい和解」となったという(和解金額は不明)。
話を戻して、2008年2月に逮捕され、10月にロスに身柄を移されるまで、半年以上の時間を要しているわけだが、これは読者ご賢察の通り、三浦氏側が日本での無罪判決を理由に、逮捕状は無効である、と訴えたからだ。これが「一事不再理問題」である。
時効の問題については前述の通りだが、同時に、日本でも米国でも、同じ案件で再び裁かれることはない、という「一事不再理」が規定されている。
これはいささか、話がややこしいのだが、日本の裁判所が無罪判決を下したからと言って、自動的に米国で訴追される可能性もなくなるものか否かは、専門の法曹関係者の間でも意見が分かれるところであるらしい。犯罪人引渡協定との絡みもあって、話を持ち込まれた米国自治領マリアナ諸島の判事も、頭を抱えたと伝えられている。
結局、殺人罪については「一事不再理」が認められたが、殺人の共謀罪については、そもそも日本では「共謀罪」が存在せず、したがって裁かれていないので、捜査中だと認められるという、いわば灰色の決着がなされ、冒頭で述べた三浦氏の自殺へと至るのである。
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