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落ちた偶像、キッシンジャー

Japan In-depth / 2020年11月9日 11時0分

その後、アメリカの政権がレーガン、先代ブッシュ、クリントン、二代目ブッシュ、オバマ、トランプ各大統領とつぎつぎに代わっても、キッシンジャー氏は対中融和政策を主張し続けた。その間、同氏は中国側の信頼も厚く、アメリカの大企業が対中ビジネスを進めるうえでのコンサルタント業を務めて、巨額の利益を得たことも広く伝えられた。





キッシンジャー氏はトランプ政権時代に中国側の国内での人権弾圧や国外での軍事膨張が顕著となり、アメリカの政府、議会、一般の中国への態度がきわめて強硬になってもなお、中国を批判することはなかった。中国の潜在、顕在の脅威を認めることもなかった。





それが米中国交回復以来41年目の2020年10月になって初めて公開の場での発言で中国とアメリカとの軍事衝突の可能性を認めたのだった。





いまのワシントン中心の中国に関するアメリカ官民の専門家たちの間では中国をアメリカにとっても、インド太平洋の周辺諸国にとっても危険な軍事脅威だとみなす認識が圧倒的に強い。その点ではキッシンジャー氏の態度は異端だったが、同氏のこれまでの歴史的な業績のためか、それを非難する声はほとんどなかった。





ところが今回のキッシンジャー発言はまずベテラン中国問題専門家のジョセフ・ボスコ氏が「キッシンジャー氏の中国の侵略的本質への認識は数十年も遅すぎた」というタイトルの論文で批判的に取り上げ、これまでの同氏の対中認識こそが間違っていたのだと論評した。





▲写真 ジョゼフ・ボスコ氏 出典:Global Peace Foundation



ボスコ氏は中国研究の専門家として2005年に二代目ブッシュ政権に入り、国防総省の中国部長などを歴任した、すでに古参の中国ウォッチャーである。そのボスコ氏がワシントンの政治外交雑誌「ヒル」の最新号に寄稿した論文でキッシンジャー氏が中国の軍事膨張や国際規範違反が明白な時代でも一切、中国を批判せず、むしろ中国政府の弁解役を果たしてきた軌跡を鋭く指摘した。





そのうえでボスコ氏はキッシンジャー氏が2020年4月に大手紙ウォールストリート・ジャーナルに寄せた新型コロナウイルスについての論文でも発生源の中国に対してまったく言及しなかったことを取り上げ、次のように述べていた。





 「キッシンジャー氏は過去50年の間、8代のアメリカ政権、5代もの中国共産党の独裁政権の間で同氏自身が育て、推した関与政策の下で、中国側がなにをしてきたかを明らかに認識してこなかったというのは、とても残念なことだ」





アメリカの対中政策形成の偶像のような存在もここにきてついに現実に目覚めたのか、少なくとも後輩の中国研究専門家からの痛烈な非難を浴びるようになった、という変化なのである。落ちた偶像と評するのも単純に過ぎるだろうか。





***この記事は日本戦略研究フォーラムの古森義久氏の連載コラム「内外抗論」からの転載です。





トップ写真:ヘンリー・キッシンジャー米元国務長官(2016年4月26日 撮影) 出典:LBJ Library (Public domain)




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