米、生き残ったダークサイド
Japan In-depth / 2020年11月10日 23時0分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#46
2020年11月9-15日
【まとめ】
・米大統領選の結果はバイデンの勝利ではなくトランプの敗北。
・米の現状「米国社会の分断」ではなく、政治の両極化が進んでいる。
・トランプ氏は善戦、民族主義や差別主義は消えなかった。
今回の選挙はバイデンの勝利ではなく、トランプの敗北だった。同様に、4年前もトランプの勝利ではなく、ヒラリーの敗北だった。これが現時点での筆者の見立てである。オバマ時代のリーマンショックで白人労働者層が怒った。トランプ時代のコロナ禍と人種差別で非白人層が怒った。でも、敗北の真の理由はヒラリーとトランプの弱さだ。
専門家は安易に「米国社会の分断」が進んだなどと言うが、そもそも米国の「分断」は建国前から変わらない。変わりつつあるのは、影響力ある指導的政治家から穏健な保守派と現実的リベラル派が消え、政治の両極化が進んだこと。投票日から一週間経っても「敗北宣言」がないこと自体が米内政の劣化を象徴しているではないか。
今年筆者は敢えて「どちらが勝ちそうだ」とは言っていない。だから、筆者の予想が当たったとか、外れたとかを、云々する気は毛頭ない。これだけの結果が出た以上、今世界は前進するしかないだろう。ただ、トランプ氏が本当の政治家かどうかは、同氏が「敗北宣言」を出すか、出すとしたら、「いつどの段階か」、がポイントになる。
多くの民主党関係者は、トランプ氏がこのまま「敗北宣言」をしない方が長期的に有利だと思っているのではないか。岩盤のトランプ支持層にも暴力的な活動は未だ見られない。何かを準備中なのか、それとも、「勝負あった」と諦めているのか。トランプ人気も意外に脆いかもしれない。どこか「日本の芸能人の人気」に似ているではないか。
▲写真 トランプ氏 出典:Flickr; Gage Skidmore
今、過去数カ月にファイルに溜め込んてきた日本の自称専門家の「米大統領選予測」なるものを再度詳しく読み返している。特に「トランプが絶対勝つ」と公言していた人々は今一体どこへ行ってしまったのか。4年毎に思うことだが、どんな小さなことでも口に出す以上は、最大限の知的正直さと慎重さが求められることを痛感する。
それにしても今回トランプ氏は善戦した。総得票数は伸ばしたし、非白人票も増えている。しかし、逆に言えば、今回の選挙でもトランプ氏を支えた「民族主義、大衆迎合主義、排外主義、差別主義」、筆者がダークサイドと呼んだ、あの醜い政治運動は息の根を止められるどころか、堂々と生き残ったということだ。
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