米大統領選挙、実は当然の結果(下)コロナに敗れたポピュリズム その3
Japan In-depth / 2020年11月20日 23時0分
さらには移民労働者の問題。安い賃金で長時間働く移民のせいで、自分たちの仕事がなくなる、といった危機意識は、やはり先進国の多くに共通して観られる現象で、移民排斥を訴える政治家も各国にまま見受けられるが、
「メキシコからの移民が、麻薬や性犯罪を合衆国に持ち込み続けている」
などと決めつけ、
「メキシコとの国境に壁を築き、その費用はメキシコに負担させる」
とまで言って大統領選挙に立候補したというのは、あまり類例のないケースであった。
▲写真 メキシコとの国境に設置された「壁」を視察するトランプ大統領(2020年6月23日 米・アリゾナ州) 出典:flickr; The White House (public domain)
これには、ローマ法王までが、
「橋をかけずに壁を築く人は、キリスト教徒ではない」
と苦言を呈したが、とにもかくにも彼は当選を果たした。そして実際、トランプ政権となってから、失業率は大きく下がり、株価は上がり続けた。もしも新型コロナ禍に見舞われなければ、まず間違いなく再選を果たしたことであろう。
ところが、よく知られる通りの事態が起きた。
トランプ政権の初動対応は決して鈍くはなく、世界に先駆けて国民一人当たり1000ドルの給付金も配ったし(同時期の日本では、マスク2枚!)、ダメージが深刻だった航空業界や観光業界には公的資金も投入された。
しかしその一方では、前任のオバマ政権が進めていた、国民皆保険制度を目指す福祉政策(いわゆるオバマケア)を白紙撤回してしまったため、コロナ禍で失業した人は医者にもかかれなくなり、街には怨嗟の声があふれたのである。
なんと言っても、新型コロナ禍を乗り越えて経済と国民生活を再建するためには、国際社会と協調しつつ、国内的にも人種やイデオロギーの違い、あるいは貧富の差を乗り越えて、国民は一致団結しなければならない。
それなのに、大統領が先頭に立って国の内外で断絶と対立を煽っているようでは、あと4年も国のかじ取りを任せてなどおけないーーそのように考えた人たちが、史上最多の得票を記録してバイデン氏を当選させたのだ。
▲写真 人種差別抗議デモ(2020年6月6日 米・ニューヨーク市) 出典:flickr; Eden, Janine and Jim
もちろん、異なる考え方をする人も大勢いた。バイデン氏が史上最多の得票を記録したと述べたが、トランプ大統領の得票も、これまでで最高であった、オバマ大統領が誕生した時のそれを上回っていたのだ。
投票率も史上最高だったからこその記録で、この点に限って言えば、次の首相が密室で決められてしまう、ということが繰り返され、政治に対して「しらけムード」が蔓延している日本と比べて、うらやましく思える面も、たしかにある。
だが、それとこれとは別の話なのであって、事ここに至っても、
「極左の民主党と偏向メディアが選挙結果を盗んだ」(トランプ大統領自身の発言)
などと信じている人たちは、一日も、いや、一分一秒でも早く現実に目覚めてもらいたいと願うばかりである。
(その1、その2の続き)
トップ写真:トランプ米大統領 出典:flickr; Gage Skidmore
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