タイ、中国関連経済区に住民反発
Japan In-depth / 2020年12月21日 11時0分
大塚智彦(フリージャーナリスト)
「大塚智彦の東南アジア万華鏡」
【まとめ】
・タイ深南部で経済産業区開発計画に地元住民が反対運動。
・環境破壊、生活圏破壊に加え中国の投資家関与に反発。
・雇用創出に貢献する計画への反発にプラユット政権も困惑。
タイ南部のマレーシアと国境を接するいわゆるタイ深南部にあるソンクラー県にタイ政府の肝いりで開発が進む経済産業区計画に対して地元住民から反対運動が起きていることが分かった。
経済産業区は工場や事業所の誘致・進出で主な産業に乏しい地元にとっては地元経済活性化や雇用の創出に直結することから通常は歓迎されるのだが、今回のソンクラー県での開発計画では事前の環境アセスメントの段階から地元住民による反対に直面している。
それはなぜか、地元メディアなどによると経済産業区開発が計画区域の環境破壊と住民の生活圏破壊につながることに加えて中国の投資家が関係していることが大きく影響している、という。
中国が一方的に進める広域経済圏構想である「一帯一路」ではタイやマレーシアは東南アジアで重要な拠点とされ、特にタイ南部ではマレー半島の最狭隘部の「クラ地峡」に運河(全長約130キロ)を建設することを中国はかねてから狙っている。
ここに運河ができれば多くの船舶がマレー半島南端のシンガポール沖、マラッカ海峡を経由せずに南シナ海、シャム湾から直接インド洋に抜けることが可能になり、流通経済、海運そして軍事戦略としても大きなメリットが関係国に生まれることなる。
しかし、タイ政府は今年9月にクラ地峡での運河計画を当面棚上げして「運河ではなく陸路、鉄路による流通ルート確保計画を支持する」と表明した。
こうした判断の背景にはタイだけでなく周辺国を含めた国際世論が「クラ地峡運河建設は中国による海洋進出を加速させる」との強い懸念があったといわれている。
▲写真 クラ地峡(青い太線) 出典:Wikipedia; Maximilian Dörrbecker(Chumwa)(Public domain)
こうした中でのソンクラー県の経済産業区開発に対する反対運動は、単にタイ深南部に多数居住する少数派イスラム教徒による政府軍への武装抵抗運動とも関連して、中央政府主導それも背後に中国投資家の影が見え隠れする構想が地元住民にとっては「地域経済の乗っ取り」に繋がるのではないかという懸念を生み出している、との見方が有力だ。
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