危機深まる金正恩体制【2021年を占う!】北朝鮮
Japan In-depth / 2020年12月30日 11時59分
こうした人事異動と粛清の強化にも関わらず、金正恩の指示は無視される傾向にある。昨年12月末の党中央委員会総会で、金正恩の指示をないがしろにする行為が糾弾されたにもかかわらず、今年の2月29日には党高級学校腐敗問題が、11月15日には平壌医大腐敗問題が政治局拡大会議で立て続けにやり玉に挙げられ、反党反革命行為として糾弾された。この一連の事態で深刻なのは、金正恩体制を守護すべき国家保衛省や、社会安全省の中に腐敗が拡大していることだ。
地方組織での統制の乱れはもっとひどい状態だ。国家保衛省と国境警備隊が組んでの密貿易や麻薬ビジネスが次々と起こっており、中央から暴風軍団(特殊部隊)を派遣しなければ統制できなくなっている。そうしたことから国境警備隊と暴風軍団の間で利権をめぐり銃撃戦が繰り広げられる事態まで引き起こされた。
金正恩統治資金の枯渇と生活物資の決定的不足が重なる中で、中央も地方も自分たちが生き残るためには、金正恩の指示をいちいち守っていられないという状況となっている。
■ 党大会で危機突破狙うも命運を握るのは新型コロナウイルス
金正恩はこうした危機からの脱出を狙って、来年1月に朝鮮労働党8回大会と最高人民会議を開催すると発表した。10月からは80日戦闘を繰り広げている。
しかし北朝鮮の報道を見ても盛り上がりがない。金日成時代の党大会はもちろん2016年に36年ぶりに開催した第7回党大会に比べても低調さが目立つ。そもそも党大会は、経済建設で成果があってこそ盛り上がるものであり、開催する意味もある。だから金正恩の父・金正日は、1980年以降党大会を開かなかった。
だが金正恩委員長は、なぜか父のやらなかったことをやりたがる。
多大な経費と労力を投入して、新型コロナウイルス拡大の危険まで冒して党大会開催を決定した。経済がどん底状態で、成果と主張できるのは、核ミサイル兵器の開発と「新型コロナ防疫」を国家的体制で行ったというぐらいだというにも関わらずだ。これはどう見ても異常である。そうしたことから今回の党大会は、これまでの党大会とは違い、金正恩体制危機脱出のイベント用ではないかとの観測が出ている。
▲写真 左から金与正、玄松月、李雪珠。 出典:いずれもWikimedia Commons; 金与正、玄松月(韓国大統領府)、李雪珠(同左)
こうした見方が広がる中で、朝鮮労働党第8回大会は、新経済5カ年計画や対米政策、対韓国政策などよりは、金正恩体制の立て直しを図る新指導部の陣容に注目が集まっている。特に昨年来浮上している金与正のポジション、そしてキム・チャンソンに代わって金正恩の行事を取り仕切っている玄松月の動向、またここ1年姿を見せていない金正恩夫人李雪珠の立ち位置などが注目されているのだ。
どちらにせよ北朝鮮の今後の動向は、新型コロナウイルスと食糧問題の解決次第といえる。米国の新政権に対する政策、レームダックに入った文在寅政権の利用なども、この2つの問題で解決が見えてこなければ、見通しを立てることは難しいと思われる。
トップ写真:朝鮮労働党第7期中央委員会政治局第16回会議での金正恩委員長(2020年8月13日 平壌) 出典:北朝鮮外務省ホームページ
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