落ちた米国の品位と名誉
Japan In-depth / 2021年1月16日 11時26分
嶌信彦(ジャーナリスト)
「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」
【まとめ】
・議会侵入煽ったトランプ氏は最悪の大統領と記憶される。
・大統領選でバイデン氏と僅差。米国の潮流は変わった。
・米国が国際的名誉と指導的地位回復するのは容易でない。
トランプ大統領は、近年のアメリカ大統領の中で最も評判の悪い最低の大統領として世界に記憶されるに違いない。共和党のトランプ大統領が世界とアメリカを揺るがせた発言、事件は数えきれないが、何と言っても人々の記憶に残り、歴史の汚点として語り継がれるのは、退任末期にバイデン氏に敗れた大統領選の「不正」を訴え、支持者に「連邦議会へ行って抗議しよう」と煽った発言だろう。
この煽り発言で数万人の支持者が全米からワシントンに集まり、その一部が暴徒化し、議事堂の窓を割るなどして議事堂内に侵入した。ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)の執務室にも無断侵入し、議長の机に脚をのせてふんぞり返る男の写真が出回った。
議会内の騒乱で、警察官によって侵入暴徒のうち女性1人が射殺され、4人が心臓発作などで死亡した。突然の乱入により上下両院で討論していた議員が避難し、上院議長のペンス副大統領はシークレットサービスによって護衛され退出した。
トランプ支持者たちは「トランプ2020」などの旗を掲げ、「ストップ・ザ・スティール(選挙結果の略奪をやめろ)」などのシュプレヒコールをあげて、バイデン次期大統領就任式用の来賓席、メディア席もトランプ支持者に占拠された。
暴徒たちが完全に排除されたのは、事件発生から約3時間後で、逮捕された者は52人にのぼり、警官14人が負傷した。1月15日現在で容疑者200人以上を特定し、100人あまりを逮捕している。上院共和党の院内政務は「国内テロだ」と切り捨てた。
トランプ政権の思想、政治手段は戦後アメリカの歴代エリート層の指導者とは明らかに異なっており、斜陽化した工場地帯の白人労働者など大衆層の支持の上に立っていた。しかし大統領選でトランプ氏の得票数は7380万票超に達し、8000万票超のバイデン氏との差は僅かでアメリカの新しい潮流を代表していたともいえる。
▲写真 トランプ大統領(2021年1月12日 ホワイトハウス) 出典:flickr; The White House
過去にアメリカが国際社会と約束した気候変動対策の枠組「パリ協定」や貿易の「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」からの離脱、多国間協調主義を軽視する「アメリカ第一主義」の思想を旗印に「日本や欧州は多大な防衛負担をアメリカに負わせて経済繁栄を享受してきた」とし、今後は同盟国がもっと防衛費を負担すべきだと主張している。
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