見方と見せ方は程度問題(下)スポーツとモラル 最終回
Japan In-depth / 2021年3月1日 11時0分
つまりJBCが忌み嫌っているのは、ボクシングとヤクザがイメージ的に結びつけられてしまうことで、裏を返せば、ボクシングに限らず戦後日本のプロスポーツが、ヤクザとずぶずぶの関係にあったという歴史のせいなのである。
ボクシング以外の例を先に挙げると、1950(昭和25)年に広島カープが結成された際、鯉城後援会(りじょうこうえんかい)という私設応援団が旗揚げされた。その会長は打越信夫という人物。
タクシー会社を経営する実業家だったが、広島市を拠点とする暴力団・岡組の幹部で、後には打越組を旗揚げする、れっきとしたヤクザでもあった。戦後の混乱期に、こうした存在は珍しいことではない。後には岡組の跡目相続をめぐって呉市を拠点とする山村組と抗争になり、多数の死傷者を出した。1973年に公開された『仁義なき戦い代理戦争』という映画では、彼をモデルにした内本という親分が登場し、加藤武(故人)が演じた。
広島は怖いとこじゃ、で済まされる話ではない。横浜ベイスターズの前身であった大洋ホエールズなど、当時の本拠地だった川崎市で勢力を持っていた稲川会と「親善試合」を行ったことまである。
ボクシングもこうした例に漏れなかったわけで、とりわけ興行面でヤクザとの結びつきが深く、リングサイド席がその筋の人間で占められていることも珍しくなかったし、また多くの組がボクサー崩れの構成員を抱えていた。
なにしろ元世界チャンピオンが、極心連合会という山口組の二次団体(2019年に解散)の相談役になっていた例まである。あの島田紳助氏が芸能界引退に追い込まれたのも、この組織との「黒い交際」が取り沙汰された結果であった。
こうした背景を知ったならば、ボクシング界が入れ墨を断じて認めようとしないのも、理解できないことではない。もう一度「そもそも論」を言うなら、ヤクザが入れ墨をするのは、もう堅気の世界には戻れない、という決意を示すためだと聞く。彫る際には激痛を伴い、それに耐えるのがヤクザの性根だということで「ガマン(我慢)」とも呼ぶそうだ。
倶利伽羅紋々とも言うが、これは本来、不動明王の姿のことで、特に人気のある絵柄であったことから一般名詞化したものと考えられている。
海外ではタトゥーは普通だ、という声も聞かれるが、それは地域によりけりだし、どこの国でもインテリと目される人たちは、まずやらない。
一方オセアニアや南洋諸島では古来、成人した証としてタトゥーを彫る人が多い。タトゥーの語源はサモア語の「タタウ」だという説まであるほどだ。紋章の意味だとか。
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