震災10年 放送されぬ「遺体」
Japan In-depth / 2021年3月14日 11時0分
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・亡くなった人の映像はテレビでは放送されない。
・テレビ報道は過度に自粛しているのではないかとの議論あり。
・事件、事故、大災害を風化させないためにどうすべきか。
東日本大震災から10年、テレビや新聞では連日特集が組まれている。テレビでは、津波のシーンが流れる前に必ず「この後、津波の映像が流れます」というテロップが出る。
被災者の方々のPTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)に配慮したものだとおもう。
そして気づいている人も多いだろうが、亡くなった人の映像は決してテレビでは放送されない。
震災直後、この問題はテレビ業界でも議論になった。災害の悲惨さを伝えるために、テレビ報道は過度に自粛しているのではないか?それはジャーナリズムにのっとって熟考した上でのことなのか?
そんな問題意識がどこからともなく沸き起こってきたのだ。なぜかというと、海外のメディアが被災地を取材したとき、彼らは日本のメディアのような判断をせず、遺体の写真を報道していたからだ。
実際、殺人現場などを取材したとき、血痕が現場にのこっていることはままある。それを撮りはしても、では実際報道するかというと、編集段階でカットするか、ぼかしを入れるか、してしまっていた。
誰に何かを言われたわけではないが、暗黙の了解でそうしていたのだ。
ニューヨーク特派員として駐在していたとき、南米で日本人の若者が強盗に遭遇し、殺害された事件があった。12月のことだったが、南半球は夏、地面に埋められた死体は腐敗し、発見されたときは骨だけになっていた。現地警察署に安置されていたそのお骨を現地カメラマンが撮影したが、もちろんその映像は放送されなかった。遺族感情に配慮したからだ。南米のテレビ局だったら、おそらくそのまま映像を流すだろう。
話を自然災害に戻す。災害は殺人事件とは違う。悲惨な自然災害の記憶を後世に残すために、我々は過度な放送自粛をすべきではなかったのではないか。そんんな反省を口にする人は震災直後、少なくなかった。
こうした問題意識から、とある東北のローカル局が津波発生時の映像を見せてくれた。大津波にのまれ濁流の中、人がもがきながら流されていく映像が淡々と流れた。それはまるでマネキンのように浮かんだり沈んだりして画面の右から左に流れ、やがて見えなくなった。それはフィクションでも何でも無い。まごうことなき津波の真実である。その映像は決して流れることはなかった。私を含め複数の人間がその映像を見たが、放送すべきだったか、すべきでなかったか。結局、その場で結論は出なかった。
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