地下鉄サリン事件を忘れない
Japan In-depth / 2021年3月20日 23時45分
ようやくカメラマンも到着した。同期だった。苦しむ外国人に声をかけた。「何を吸い込んだんですか?色は?透明でしたか?」矢継ぎ早に英語で質問したが、彼は話すことすらできない。「このまま亡くなってしまうのではないか・・・?」背筋が寒くなる。
後で分かったことだが、サリンは新聞紙に包まれ、オウムの実行犯は足元に置いた包みを傘で刺して中のサリンを車内で拡散させた。
その包みを見た、という女性も現れた。その人は包みのすぐそばにいて「何だろう、と思った」とインタビューに答えた。
ぐったりしている人々は次々と救急車に運び込まれていく。その時は、サリンが撒かれたなどという情報はなかった。駅構内に入ったカメラマンや、サリンガスに暴露した人を取材した記者が残留ガスを吸い込んだのか、後で「縮瞳(瞳孔が過度に縮小し、眼前が暗くなる現象」したケースもあったが、そんなことは知るよしもない。
▲写真 地下鉄サリン事件 1995年3月20日 出典:Yamaguchi Haruyoshi/Sygma via Getty Images
私は政経部所属だった。本来は社会部記者が現場にいなければいけないのだが、デスクは「現場にいろ」と私に指示した。その時、事件現場にいた記者は私だけだったからだろう。社会部の記者はおそらく通勤途上だったに違いない。
とにかく私は様々な人にインタビューし、現場の状況を無我夢中でしゃべり続けた。収録した映像とリポートはすぐに河田町のフジテレビに運ばれた。現場の様子を撮った衝撃的な記者リポートは午前中の報道特番で流され続けた。
撒かれた液体がサリンだとわかったのは午前11時頃。警視庁が記者会見で発表したのだ。“縮瞳(しゅくどう)”という瞳孔が縮み眼前が暗くなる症状が出ることもわかってきた。
事件発生後しばらくしてからだと思う。一人の若い女性が私に近寄ってきてこう告げた。「あの車両に乗ってたんですが、なんともなかったので普通に出勤したんです。でも職場でだんだん目に見えるものが暗くなってきて・・・テレビで毒ガスが撒かれたと聞いて怖くなって戻って来ました」そう私に告げた。
私は、撒かれたガスがサリンだとの発表を聞き、偶然すぐ近くにクリニックを開業している友人の医師に電話して、縮瞳に効く薬はアトロピンやPAMという薬だと聞いていた。
私は彼女に、現場に残っている救急隊のところに行ってすぐに病院に行くように言った。あの女性はその後どうなったろうか。今でも気にかけている。
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