安全神話が国難招いた(下)日本メルトダウンの予感 その2
Japan In-depth / 2021年3月23日 19時0分
1974年、国産原子力船「むつ」の試験航海で起きたことをご存じだろうか。
▲写真 海洋地球研究船「みらい」(元原子力船むつ) 出典:oomamusi
地元漁民らの反対をはねのけて強引に出向し、沖合で原子炉が臨界に達したが、同時に、原子炉隔壁から微量の放射能漏れが検知されたのである。
工業製品には「初期欠陥」と言って、設計段階では予測し得なかったトラブルがつきものなのだが、原子力船「むつ」に関しては、設計は完璧だという思い込みがまずあって、常識的な放射線対策さえ準備されていなかった。
そもそもこのトラブルは、隔壁の設計ミスであったことが後日明らかになったのだが、それでも、鉛の薄板で隙間をふさぐ準備さえしておれば、その場は無事に乗り越えられたとされる。
しかし、現実になされたことと言えば、なんと夜食用のおにぎりに、中性子を吸収するホウ酸をまぶして、隙間に埋め込もうというものだった。おまけに最初は、誰も近づきたがらないので(防護服もなかったのだから、当然!)、離れたところから投げつけた。それではうまく行かない(行くか!)からと、ついには「学界カースト」で下位にある若い研究員が、水杯を交わして、おにぎり片手に隔壁に歩み寄ったという。
漫画の話ではない。日本の「優秀な原子力技術者」が現実に、同乗していた報道陣の前でやってのけたことなのだ。
私自身も数年前まで、水杯云々はさすがに一種の都市伝説ではないのか、との疑いを捨てきれずにいたのだが、まさに当日、国家公安委員会を代表して科学技術庁の長官室に詰めていたという佐々淳行氏が2015年にレポートしていたので、あらためて驚き呆れた次第である。
ちなみに、その長官室にも警察にも事故の一報は入らず、TVニュースの方が先であったとか。二重三重に酷い話ではないか。
日本人は、たしかに器用でしかも勤勉だと思う。私は海外生活が比較的長いので、日常生活レベルでそのように感じることがよくあった。
そのことに自信を持つのは悪いことではないが、自信が過信になってはいけない。
危機管理の問題がクリアされないうちに、原発再稼働を主張しても、多くの国民にとっては、
「今までの投資を無駄にしないよう、たとえ新型コロナ禍にまつわるリスクがあろうと、東京五輪は開催すべきだ」
というのと同列の暴論に聞こえるのではないか。
私自身、アスリートたちの五輪にかけた熱意と努力を想えば、なんとか開催して欲しい、との思いをすでに開陳したものだが、安全には代えられない。
原発もコロナ対策も、今度なにかあったら「想定外」では済まされないのである。
トップ写真:事故を起こした福島第一原発と防護服の作業員 出典:Pallava Bagla/Corbis via Getty Images
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