ヨルダンクーデター騒ぎの余波
Japan In-depth / 2021年4月6日 12時30分
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#14」
2021年4月5日-11日
【まとめ】
・ヨルダンで元皇太子ら約20人が、クーデター未遂容疑で拘束。
・ヨルダン政府は元皇太子と「外国勢力」との繋がりを示唆。
・旧オスマン帝国の中東部分で再び政治的地殻変動が起きる可能性。
先週末、ヨルダンで驚くべき事件が起きた。元皇太子ら約20人がクーデター未遂容疑で拘束された。遂に恐れていたことが起きたと感じる。過去30年、我々はイラクとシリアを破壊したが、それにより、そこそこ安定していた旧オスマン帝国の中東部分で再び政治的地殻変動が起きる可能性があることを、筆者は長年懸念してきたからだ。
アラビア語研修の中東屋である筆者にとってヨルダンは大好きな国の一つである。1980年代前半のイラク在勤時代、サダム・フセインが支配するバグダッドを飛び立ってアンマン空港に到着する毎に、あの国の穏やかで自由な雰囲気を満喫した思い出がある。外務省退職後には一時ヨルダンで貿易商売を試みたことすらあった。
天然資源のない人口一千万ほどの小国だが、ヨルダンの魅力は大きい。メッカの太守フセインの血筋を引くハーシム王家は今も地域の安定に重要な役割を果たしている。日本も経済協力を通じヨルダンの安定を支援してきた。フセイン前国王、アブドッラ現国王とも日本贔屓、確か二人は自ら国王専用機を操縦し訪日するパイロットだ。
外務省を辞めてから一度だけ、訪日中のアブドッラ現国王と意見交換する集まりに参加したことがある。国王の英語の心地よい響きと中東情勢に関する見識の高さに圧倒された。特に、イスラム国やパレスチナ問題については、当然ながら、ヨルダン外務省の担当官の如く、実務の詳細まで完全に把握していた。実に衝撃的だった。
▲写真 ヨルダン・アンマンで開催された特殊作戦部隊展示会に出席する ハムザ王子(2010年5月11日) 出典: Salah Malkawi/Getty Images
ヨルダンについては今週の毎日新聞政治プレミアに書いたのでご一読願いたいが、先週もう一つ気になったのが、米国でのアジア系移民に対するヘイトクライムの拡大だ。3日にはノースカロライナ州シャーロットの韓国系移民一世夫婦が経営するコンビニに鉄の棒を持ったアフリカ系男性が押し入って器物を破損したという。
男性は「自分の国に帰れ、中国人め」と罵ったそうで、典型的な憎悪犯罪だと報じられた。しかし、この種の「アフリカ系米国人」対アジア系、特に「韓国系移民」との確執は決して目新しくない。両者の関係悪化は1990年代から既に顕在化していた。その典型例が筆者の米国在勤中に起きた1992年4-5月のロス暴動だった。
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