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菅首相「46%」目標とバイデン気候サミット(下)

Japan In-depth / 2021年4月24日 23時0分

ちなみに反原発運動によって日本の原発技術が立ち枯れれば、中国製原子力の商機にとってプラスとなる。このように中国は脱炭素化に向う世界の中でしたたかに立ち回っている。今回の日本の▲46%目標の相当部分を太陽光発電や風力で賄うとすれば中国製パネル、風車の輸入拡大になるだろう。





このように考えると今回のサミットの勝者は中国であったと言える。環境原理主義的な理想に燃えたケリー特使の戦略は失敗したというべきであろう。





■ 先進国・途上国対立の再燃





米国の環境原理主義的な気候外交のもたらす弊害はそれにとどまらない。元来、パリ協定は1.5度~2度目標という全球目標を掲げつつも、各国の実情を踏まえたボトムアップの目標設定を根幹とする枠組みであった。にもかかわらずトップダウンの1.5度目標を絶対視し、それに基づいて炭素予算を割り出し、2030年に全球▲45%、2050年に全球カーボンニュートラルという目標に固執することは、各国の実情や異なるプライオリティを無視した環境原理主義の発想である。





欧米がカーボンニュートラルを迫れば、途上国は当然これに反発し、「それならば先進国は2040年より前にカーボンニュートラルを達成し、途上国への支援を大幅に増額せよ」と要求するだろう。先進国が更なる目標の前倒し、途上国支援の大幅上積みに対応できるとは思えない。限られた炭素予算の争奪戦はポスト京都議定書交渉時代の先進国・途上国対立を再燃させるだけである。





途上国が目標を引き上げない場合は国境調整措置を使って行動を促せばよいという議論があるかもしれない。しかし国境調整措置は体化されたCO2排出量の計算が比較的容易な分野に限られる。しかも中国やインド等を国境調整措置の対象とすれば、温暖化防止に名を借りた保護主義であるとして報復措置を招き、貿易戦争につながるだろう。そうなれば中国への輸出依存の高いドイツ等が戦線から脱落してくだろうし、日本への悪影響も大きい。国境調整措置を武器にした行動促進には自ずから限界がある。要するに野心的な目標というカードを気候サミットで切ってしまった先進国には交渉レバレッジがほとんどないということである。









写真:バイデン大統領主催の気候変動サミットにオンラインで参加する菅首相(2021年4月22日 首相官邸) 出典:首相官邸facebook





筆者は元交渉官として、数値目標を交渉対象とする京都議定書や、先進国・途上国対立に支配されたポスト京都議定書交渉過程をつぶさに見てきた。それだけに各国の自主性を尊重したパリ協定の成立を嬉しく思ったものである。それがパリ協定の温度目標への教条的こだわりが各国のフレキシビリティを奪い、先進国・途上国対立を再燃させる方向に向かっていることを非常に残念に思う。





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