あらためて死刑廃止論ずべき(下)「墓石安全論」を排す 最終回
Japan In-depth / 2021年4月28日 19時0分
そうなると残るは状況証拠のみで、これで有罪判決が下されること自体、ひどい話だと言わざるを得ないが、そもそも近隣住民の証言くらいしか「証拠」がない。当日カレーを作る当番の中に被告がいて、およそ20分間カレー鍋の側に一人でいる時間があった、というものだが、これも弁護側の反論によって、かなり疑わしいものとなっている。
彼女が紙コップを手にカレーを調理したガレージに入って行くのを見た、という目撃証言もあったが、これは当時16歳の定時制高校生によるもので、公判中、当人が傷害事件を起こして逮捕されたことから、この「最重要目撃証人」の喚問は見送られたという。
ちなみに、現場近くのゴミ箱から見つかった、ヒ素が付着した紙コップは水色、この少年が目撃した紙コップはピンク色であった。
このように、あいまいな目撃証言だけで、死刑の判決を下してよいものかどうか。
もしも冤罪だとすれば、真犯人がいることになるが、これについては、当時未成年だった被告の親族が真犯人で、被告はその親族をかばっているのではないか、と見る向きもあるようだ。ただしこれは、よくある「ネットの噂」の域を出るものではないので、ここで掘り下げて論じることはしない。ただ、こうした噂があるということでもって、私が冤罪を訴えている主婦の姓名を伏せている理由もお分かりいただけよう。
ネット時代にこのような配慮は、さして意味のあることとも思えないが、それでもなお、ひとつ指摘しておきたいのは、被告の子供たちのことである。両親が収監され、親戚も引き取りを拒否したため、児童養護施設に送られたが、凶悪殺人犯の子供だということで、壮絶なイジメに遭ったという。冤罪か否かの議論をここでひとまず置いてでも、子供の人権まで蹂躙されてよいはずはあるまい。身元を伏せて保護するなどの配慮はできなかったのだろうか。
ともあれ私が昔から死刑廃止論者である、最大の理由がこれである。
無実の人間が死刑にされてしまう可能性を完全に排除などできない以上、システムとしての死刑制度それ自体が、あってはならないものとみなされるべきなのだ。
もうひとつ、世界の大勢が死刑を廃止している事の意味を、もう少し深く考えてみてはどうだろうか。
このように述べると、日本には日本の法体系や文化的土壌があるのだから、といった反論を受けがちだ。また、死刑を廃止したら人殺しが増える恐れがある、と考える人も、決して少なくない。世界の大勢と言うが、死刑を存続している国(具体的には米中など)の総人口は世界の過半数ではないか、との反論もあり得よう。
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