バイデン政権、危うい対北政策「見直し」
Japan In-depth / 2021年5月3日 11時29分
島田洋一(福井県立大学教授)
「島田洋一の国際政治力」
【まとめ】
・バイデン政権の対北政策は、北に騙されたライス・ヒル融和路線に戻る兆候。
・北朝鮮は米側が折れ始めたと見て、米国内の宥和派に揺さぶり。
・制裁緩和をただ取りされぬよう、日本は米国に最大級の釘を刺していく必要がある。
バイデン政権の外交政策は、トランプ政権と違い「外交のプロ」たちが仕切るので安心だと言う「識者」が多いが、筆者は逆に、オバマ政権時代に極めて宥和的なイラン核合意(2015年)をまとめた人々が政権の中核を占めるだけに、特に対北朝鮮政策など非常に危ういと指摘してきた。
当時副大統領だったジョー・バイデン大統領を筆頭に、国務長官だったジョン・ケリー気候変動問題担当大統領特使(閣僚待遇で国家安全保障会議のフルメンバーでもある)、国務副長官だったアントニー・ブリンケン国務長官、交渉代表を務めたウェンディ・シャーマン国務副長官、その下で交渉に携わったジェイク・サリバン大統領安保補佐官など、イラン核合意を「オバマ外交最大の成果」と位置付ける人々がバイデン外交チームの中心をなしている。
▲写真 イラン核合意後に記者会見するオバマ大統領の横に控えるバイデン現大統領(当時、副大統領 2015年7月14日 ホワイトハウス) 出典:Andrew Harnik/WHITE HOUSE POOL (ISP POOL IMAGES)/Corbis/VCG via Getty Images
ではイラン核合意の問題点とは何か。簡単に整理しておこう。
(1)イランの核活動を「制限」するだけで、核の放棄どころか凍結ですらない(例えば遠心分離機の部分的運転を容認)。しかも10年ないし15年間の「時限合意」であり、期間が過ぎればイランは自由に核活動ができる
(2)検証規定が甘い
(3)ミサイルに何の制限も課していない
(4)テロ放棄を迫っていない
(5)拉致問題を棚上げした(イラン領内で失踪した元FBI捜査官ロバート・レビンソン氏のケースなど)
一方、核活動「制限」の見返りとしてイランに対し米金融機関が凍結していた資金引き出しを認め、経済制裁の多くを解除した。続くトランプ政権はこれを「最悪の合意」と批判し、枠組みから離脱すると共に対イラン制裁を強化した。
さて危惧した通り、バイデン政権の北朝鮮政策は、ブッシュ長男政権の末期に、北朝鮮の見せ掛けの「非核化措置」と引き換えに制裁緩和を重ねたライス・ヒル路線に戻る兆候を見せている。
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