米、通貨の番人とホームレス
Japan In-depth / 2021年5月12日 11時0分
筆者がそれを読んで想起したのは、新約聖書の「ヤコブ書」の第2章14~16節にある、次のようなくだりである。
「私の兄弟たち。だれかが自分には信仰があると言っても、その人に行いがないなら、何の役に立ちましょう。そのような信仰がその人を救うことができるでしょうか。もし、兄弟また姉妹のだれかが、着る物がなく、また、毎日の食べ物にもこと欠いているようなときに、あなたがたのうちだれかが、その人たちに、『安心して行きなさい。暖かになり、十分に食べなさい』と言っても、もしからだに必要な物を与えないなら、何の役に立つでしょう」。
シーゲル記者は記事の中で、「FRBは金利を大幅に引き下げ、最高値を更新する株式市場を支え、3兆3000億ドル分の米国債やモーゲージ債を買い入れた。しかし、ホームレスには何の助けにもなっていないのはなぜか」と問うた。その答えとして同記者は、「FRBのツールは金融システムに働きかけるため、その仕組みを使って投資をしている裕福層が最も直接的に受益する」と解説しており、それは当たっている。
また、パウエル氏らFRB高官たちは、貧しい人たちに対して意図的に加害しているわけではない。なぜなら、米議会から与えられたFRBの負託は、①雇用を安定させ、②物価急上昇を抑えることであり、貧者救済はFRBの仕事ではないからだ。
にもかかわらず、FRBは「言葉」だけで「行い」が足らないと感じられるのは、経済格差があまりにも露骨に拡大してしまった結果として人々が容易に抜け出すことのできない、塗炭の苦しみに喘いでいることが大きい。
さらに、過去半世紀にわたり、その貧富差拡大に極めて大きな役割を果たしてきたのが、構造的に富裕層をさらに富ませ、中間層や低所得層を貧困化させる金融政策であることが、パウエル発言に対する違和感の最大の要因だ。言葉だけで行いが伴わないホームレスに対する言及は、偽善的であるということだけは確かだ。
■ 中央銀行とヤミ金
ホームレスとFRBの関係で、筆者は2015年の取材体験からも考えさせられたことがある。中西部ミズーリ州セントルイスに所在するセントルイス連銀のブラード総裁にインタビューする仕事の際に見聞きしたことだ。
まず、連銀内の総裁室に案内された筆者は驚嘆した。天井が見上げるほど高く、総大理石造りの重厚で豪華な建物は、何と第2次世界大戦中に建造され、終戦の年である1945年に落成したものだという。こんな物量に勝る国と戦った日本が敗北したのは、当然だと改めて痛感させられた。ところが、それよりも大きな驚きが待ち構えていた。
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