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米、通貨の番人とホームレス

Japan In-depth / 2021年5月12日 11時0分

取材を無事に終え、連銀の建物を出た筆者は、大通りを挟んで向かい側に「ペイデーローン」、すなわちヤミ金の消費者金融の店舗を発見して、たまげてしまった。当時もFRBは、リーマンショック後の米経済を回復させるために、現在よりは小規模ながら哲学的に類似したゼロ金利政策を実行していた。その「中央銀行の下部組織」の目の前で、個人向けの高利貸の業者が、堂々と営業していたから、奇異感が増幅されたのだ。









▲写真 イリノイ州シカゴ市の「ペイデーローン」を扱う店舗(2019年撮影 ※記事とは関係ありません) 出典:Interim Archives/Getty Images





FRBのゼロに近い政策金利が、銀行や高利貸の利潤を最高レベルに押し上げる一方で、信用に問題のある低所得層はペイデーローンなどでしかお金を借りることができず、低金利下においても最高年率(APR)400%という法外な金利を課され、完済することのできない借金のアリ地獄に閉じ込められていたのである。





当時だけで、ペイデーローン業界は年間90 億ドル(約1兆円)の利息や手数料で潤っていた。一方で、裕福層は年率10%未満の好条件でお金が借りられるという、「金利の差は貧富の差」という状況が生まれていた。こうした構図は、今も変わらない。





ビジネスの面から考えれば、滞納や貸し倒れの恐れがある高リスク層の金利をより高く設定するのは、当然のことである。しかし、民主・共和両党が手を携えて推進したグローバル化が労働者たちの価格決定権を奪い、セーフティーネットさえも取り上げた中で、金融政策の哲学や仕組みそのものが裕福層に不公平な形で有利な構造となっている。





FRBの低金利政策や資産購入は、富裕層をさらに富ませるだけであり、FRB本館近くの「テントシティー」出現や、セントルイス連銀前のペイデーローンの繫盛は、そうした金融政策がもたらす必然であったのだ。





■ ガラガラポンしかないのか





こうした構造的問題は、パウエル議長の提言通りに、たとえホームレスたちが金融政策決定の場に参加できたとしても、解決する性質のものではない。富裕層やエリートが法外な特権を自主的に放棄すればよいのだが、彼らこそが、そうした既得権を守るシステムを法律や学問の世界で作り上げてきた張本人であるため、自浄作用に期待することはできない。つまり、制度の根幹は不変のままだ。そうなれば、革命や戦争など、富の分布を平準化する「ガラガラポン」のイベントしか、真の問題解決の道は残されていないということになる。









▲写真 トランプ前大統領(2018年11月) 出典:Aaron P. Bernstein/Getty Images





グローバル化により、国民の生活の安定と福祉を第一とする、健全なナショナリズムが抑圧されることで、貧富の差の拡大は続き、金融政策も(結果的に)中間層や低所得層に敵対的なものであり続ける。これは、メガ級の財政出動やバラマキでも直すことはできない。そのため、絶望した大衆の声を、たとえジェスチャーだけでも掬い上げる第2第3のトランプが出現する可能性は、ますます高まり続けるのみなのだ。





トップ写真:鉄道高架下のホームレスのテント村。約6,500人がホームレスで暮らす。ワシントンDC(2020年3月27日) 出典:Chip Somodevilla/Getty Images




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