北朝鮮、未曾有の食糧危機に
Japan In-depth / 2021年5月22日 23時56分
今年の状況も3月までは2020年と同じペースかそれ以下と予測されたが、危機を感じた北朝鮮は、貴重な外貨を絞り出し、4月の対中国緊急輸入を前月比約2倍の2875万ドルに増やした。そしてその45%(1293万ドル)を肥料(リン酸アンモニウムと窒素肥料計4万トン弱)に振り向けた(2021.5.21:VOA報道)。
肥料の半分を輸入に頼り、かつ年間肥料使用量の半分以上を春に投入しなければならないことを考えると、この程度の緊急輸入で肥料不足を解消することはできない。そのために住民に人糞と尿の提供ノルマまで課している状態だ。尿のノルマは1日2リットルだという。しかし花崗岩を母岩にした痩せた北朝鮮の土壌では、十分な化学肥料の投入なしには生産性の向上は期待できない。
この状況は、今年の北朝鮮農業が大きな危機に直面することを予告するものである。
・農機具と資材の不足
肥料だけでなく農機具不足も深刻な状況となっている。農機具不足を埋める動力として使われてきた牛も飼料不足でやせ細り、思うように農作業ができない状況だ。そのために農地の掘り起こしが進まず、期日までに種まきができない事態が生まれている。
平安南道のデイリーNK内部消息筋は、今年3月に行われた道農村経営委員会の調査結果だとして、道内の農場で2月の1ヶ月間で牛120頭が死亡し、その4分の3が栄養失調だったと伝えてきた。
これまで北朝鮮を訪問した在日朝鮮人からは、牛がやせ細って大型犬と見間違えるほどだとの情報がもたらされていたが、大量死しているとの情報は初めてだ。
農村管理委員会は「トラクターを使え」と指示を出しているようだが、多くの農場にあるトラクターは、40年以上も前のもので、老朽化が激しく、使用に絶えられない代物となっている。それに何よりも動かす油が手に入らない。
また作物を保護するための農業用ビニールも6割が足りず、今後作物保護もままならない状況だという。
▲写真 北朝鮮の妙香山の平安北道の田園地帯にある古い北朝鮮のトラクター (2009年5月17日) 出典:Eric Lafforgue / Art In All Of Us / Corbis via Getty Images
3、来年は更なる食糧不足か
今心配されているのは、今年から来年にかけての食糧生産だ。今年の食糧供給は、昨年の食糧生産量と輸入量で決まり、来年の食糧は今年の出来高いかんで決まる。しかし昨年は風水害で例年水準を大幅に下回り、今年は肥料不足と農機具不足でそれよりも下回ることが予想されている。今年に再び大型自然災害に見舞われれば、食糧危機は、未曾有のレベルとなるだろう。
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