ブラックパワー・サリュートの背景とは それでも五輪は開催された その2
Japan In-depth / 2021年6月26日 11時47分
そして二人のアフリカ系メダリストは選手村から追放され、前述のように「帰国したら犯罪者扱い」であったわけだが、もともと五輪というイベントにおいては、政治的パフォーマンスはタブー視されていた。
オリンピックの原型とされる、古代オリンピア競技会が、期間中、全ての戦争を禁じた上で開催される「平和の祭典」であったことが思想的な裏付けであったとされるが、時代が下ると競技会への参加は「国威発揚」を目指すものとなり、ついには1980年モスクワ大会に際しては、米国が旗を振って、日本を含むに親米諸国が一斉にボイコットした。
実は今次の東京五輪に際しても、大きな変化が起きている。
今年4月に発表されたことだが、IOCは今次の大会期間中、
「人種差別反対や社会正義を訴えるための、平和的な抗議活動に対しては制裁を科さない」
と決定したのである。
米英のメディアが報じたところによれば、やはりこれもアフリカ系米国人の問題と関係がありそうだ。昨年も大きな関心を集めた、白人警官の暴力によってアフリカ系市民が命を落としたことをきっかけとするBLM(ブラック・ライヴズ・マター 黒人の命も大切だ)運動に配慮したものではないか、と多くの人が考えているらしい。
国旗掲揚の際に、膝をついて抗議することも容認するようだが、私がちょっと引っかかるのは、2022年に予定されている冬季北京大会とのからみだ。
▲写真 新疆ウイグル自治区の人権問題等で2022年北京冬季五輪をボイコットするよう米国政府に求める集会参加者(2021年6月4日 ワシントンDC) 出典:Kevin Dietsch/Getty Images
すでに広く報じられているように、チベットやウイグル自治区における中国共産党による人権侵害を問題視して、一時はボイコットを示唆する声まであった。今のところボイコットの主張は鳴りをひそめているように見受けられるが、選手が独自に抗議することまでは止められない、というのが案外IOCの思惑ではないか。
中国共産党は、まるで先手を打つかのように、北京五輪においては一切の政治的パフォーマンスを厳に禁じるよう、IOCと各国に働きかけていると聞く。
「赤い貴族」と呼ばれる中国の支配層と、利権まみれの「五輪貴族」との間に、なんらかの軋轢があるとすれば、我ら下々の者の声など届かないかも知れないが、スポーツに政治を持ち込むなと、さんざ言い続けてきたのはどこの誰だ、と言いたくなるのは私一人ではないと思う。
(その1)
トップ写真:1968年メキシコシティ五輪の200m走の表彰台で、拳を掲げる金メダリストのトミー・スミス(中央)と銅メダリストのジョン・カーロス(右)。銀メダリストのピーター・ノーマンも2人の行為に賛同し、OPHRのバッジを着用している(1968年10月16日) 出典:Getty Images
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