映画から見えた「この国のかたち」忘れ得ぬ一節、一場面 その2
Japan In-depth / 2021年7月22日 23時0分
「一体我が国は、この戦争に勝てるんか」
と問いかける。児玉は、遠くを見るような目つきで淡々と、
「勝算はありません。まず五分五分。死力を尽くして六分四分」
と答える。これは有名な言葉だが、児玉は言下に、
「しかし……やるなら今です」
と言葉をつなぐ。その理由は、
「むこう両三年の間、現状に甘んじて推移するとすれば、シベリアの鉄道は複線化され、ロシア本国にいる正規軍100万は、たちどころに満州、朝鮮に殺到することとなりますぞ。そうなってからでは、もはや戦(いくさ)にも勝負にもなりますまい」
だからこそ、ともかくも敵地に踏み込んで引き分けに持ち込み、あとは国際世論の力でロシアの侵略行為に掣肘を加える。それだけが日本が生き残る道だ、と児玉は説く。
▲写真 児玉源太郎 出典:Ann Ronan Pictures/Print Collector/Getty Images
これが明治と昭和の違いなのか、と考えざるを得なかった。当時、世界最強の呼び声高かったロシア帝国の軍隊を向こうに回して、勝利など望むべくもない。伊藤が最後まで開戦に消極的だったのは、当時の日本が小さく貧しい国であったことを、よく知っていたからである。
しかし、別の側面も描かれていた。児玉の鬼気迫る説得に押し切られ、涙目でうなずいた伊藤だったが、ぱんぱん、と手を叩くと襖が開き、芸者衆が入ってくる。
「こんばんわぁー」
と無駄に愛嬌のある声を挙げながら。
文明開化などと言いつつ、いつの世も「この国のかたち」は、こんな風に料亭で決められてきたということか、などと思った。
前線に送られる兵士たちの姿も、それぞれよく描かれていた。
あおい輝彦(ちなみに初代ジャニーズのメンバーである笑)が、なかなかよい味を出していた。金沢の小学校教師で、トルストイに傾倒するあまり、年に何度か神田のニコライ堂までロシア語を習いに来るというインテリだが、応召して小隊長となる古賀少尉、というのが役どころだ。
ここは少々、解説が必要だろう。
まず、大日本帝国憲法においては、臣民(国家は天皇のものなので、国民ではなく臣民と称された)の義務として兵役があり、法令によって満20歳から40歳までの男子は、徴兵検査を受けて軍隊に入らなければならなかった。
もっとも一般的な兵役である陸軍歩兵の場合、現役三年、その後四年間は予備役に編入されることになっていたが、これはタテマエで、戦争がない時期はもっと早く娑婆に戻れたようだ。予備役に編入された者は、どのような職業につこうと干渉されないが、開戦不可避となったら軍隊に呼び戻された。これがつまり応召である。
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