「中国ウイルス」の呼称は禁止なのになぜ「インド型」はOK?
Japan In-depth / 2021年7月24日 19時0分
NHKは昨年5月ごろ、新型コロナウイルスの報道で「川崎病」という呼称を頻繁に使っていた。ニューヨークでの新型コロナウイルス感染者の間に「川崎病」に似た症状が多くみられた、というニュースだった。
以下のようなNHK報道だった。
「ニューヨーク市は『川崎病』に似た症状と、新型コロナウイルスへの感染が関連している可能性があるとして、医療機関や親に対し、こうした症状の子どもが見つかった場合、重症化を防ぐためにすぐに専門の医師に相談して早期に治療を始めるよう注意を呼びかけています」
「新型コロナウイルスの患者で、『川崎病』に似た症状を示す子どもはヨーロッパ各国でも報告されていて、専門家による調査が行われています」
「川崎病」、つまりKawasaki diseaseという名称からはふつうの日本人なら、あるいは日本のことをかなり知っている人間なら、神奈川県の川崎市を連想するだろう。しかしこの場合の「川崎」は地名ではなく、この感染症を最初に医学的な見地から確定した日本人の川崎富作博士の名に由来する。
だがそれでも世界の多くの人たちがこの病気の名称から日本を連想することは確かだろう。その反応が日本への偏見や差別となるのか。中国ウイルスが中国への偏見を生むならば、川崎病も日本への偏見を生むことになってしまう。
実は特定の病気を人名でも地名でも特定の対象に結びつけて呼称することは国際医学界ではごく普通なのである。
近年の実例では「エボラ熱」が発生地のアフリカ、コンゴの特定の川の名前からとられた。2012年ごろから中東地域で発生し、国際的に拡散したコロナウイルスの感染症「中東呼吸器症候群」(MERS)もまさに特定地域の名称そのものだった。
古い感染症では20世紀初頭の「スペイン風邪」も国名ずばりから命名された。その後の1920年代に日本から他の諸国への広がる形になった「日本脳炎」(Japanese encephalitis)も、いまなお「日本」という国名そのものの名称で認知されている。
しかしいま全世界を襲う中国の武漢発のコロナウイルスとなると、中国や武漢という名称をつけて呼んではならないとする主張が日本の一部で見聞される。ところがその日本の一部はその主張と同時に「イギリス型、インド型のウイルス」という名称を平然と使い続けているのである。
**この記事は日本戦略研究フォーラムの古森義久氏の連載コラム「内外抗論」からの転載です。
トップ写真:新型コロナウイルスで亡くなった親戚を大規模火葬場で見送る男性 インド・ニューデリー (2021年4月24日)
出典)Photo by Anindito Mukherjee/Getty Images
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