五輪・スポーツの描かれ方(下) 忘れ得ぬ一節、一場面 最終回
Japan In-depth / 2021年8月3日 11時0分
そのまま引き分けに終わったことで、日本のワールドカップ初出場の夢は立たれたのであった。
ベンチに下がっていた中山雅史選手が、同点ゴールの瞬間、両手で顔をおおって崩れ落ちた光景も忘れがたい。1993年10月28日のことである。
▲写真 ドーハの悲劇(1993年10月28日) 出典:Photo by Etsuo Hara/Getty Images
当時『ニュースステーション』のキャスターだった久米宏氏が、
「景気は悪い、米は取れない(冷害だった)、ワールドカップにゃ出られない」
などと嘆いていたのも、やはり忘れがたい。
シリーズ第2回で戦争映画について、戦闘シーンよりも戦場という非日常的な空間における人間ドラマを見るのが楽しみなのだと述べた。
スポーツ映画についても、同様のことが言える。
戦争とスポーツを同列に論じるのは、いかがなものかと言われそうだが、ワールドカップを引き合いに出したのは、話がここにつながるからで、この大会は単なるサッカーの世界大会ではなく「戦争の代替手段」と長きにわたって呼ばれている。スペインにおいて、レアルマドリードとFCバルセロナの試合が「戦争」と呼ばれていることは、日本でもよく知られるようになってきている。
サッカーに限られた話ではなく、スポーツの試合がもたらす高揚感が、過激なナショナリズムを誘発し、政治・外交問題に発展しかねないという懸念は昔からあった。いや、懸念にとどまらず、ボイコットや死者まで出る暴力沙汰など、現実に起きた事件も枚挙にいとまがない。
そもそも五輪とは、こうした過激なナショナリズムを止揚することを目指した「平和の祭典」であったはずなのだが。
サッカーに限られた話ではない、とわざわざ述べたのは、奇しくも『勝利への脱出』と同じ1981年に公開された『炎のランナー』というイギリス映画が印象深かったからだ。
リトアニア移民の2世でユダヤ系であるハロルド・エイブラムスは、天性の走力を生かし、陸上競技で栄光を勝ち取ることで「立派なイギリス人」と認められることを夢見ている。
もう一人、スコットランドの牧師の息子であるエリック・リデルは、自身も神に仕える人生を選び、自分にとって「走ることは伝道だ」と言い切る。そんな彼に対して妹は、
「それって、ちょっと違うんじゃね?」
とは言わなかったが、違和感を抱き、しばしば軋轢も生まれたりする。
2人は1924年のパリ五輪において短距離走の代表に指名されるが、イタリア人のプロ・コーチを雇ったハロルドは、学長から呼び出しを受けて「アマチュアリズムに反する」などと責められ、一方、宗教上の理由で日曜日の競技には参加できない、としたエリックは、選手団や取材陣から「国を裏切るつもりか」などいう批判を受ける。
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