アフガニスタン危機の日本への意味(下)
Japan In-depth / 2021年8月17日 11時0分
この南ベトナム崩壊の過程で私が目撃したのはアメリカに支援され、依存し、アメリカ流の民主主義を選んだ現地の人々の悲劇だった。サイゴンでは北ベトナム軍の大進撃が伝えられるにつれて、国外に脱出しようとする人たちの集団が渦巻いた。
ちょうどいまアフガニスタンの首都カブールで起きているような国外避難の動きだった。やがて入城してくる敵につかまり、虐待されることを恐れての脱出だった。
当時のアメリカ政府も南ベトナムでの自国の軍隊や行政機関に協力したベトナム人たちはアメリカへの難民として認め、かなりの数を退避させた。しかしその受け入れにも限度があった。
その一方で南ベトナム軍はまだ北軍と決死の戦闘を続けていたからだ。一国の軍隊が外部からの敵と全面戦闘をしているときに、その背後にいる一般国民を国外へとどんどん退避させることができないのは自明だった。
だから脱出の動きは最後の最後の日、つまり北ベトナム軍が実際にサイゴンに突入してきた4月29日から30日にかけてが最大規模のパニックとなった。敗北が決定的となったからだ。
私もサイゴンにはすでに3年も住んでいたので、知人友人も多かった。そうした人たちから国外への脱出、日本への避難の手助けを求められた。保証人や結婚相手になってくれという嘆願だった。外国人との縁が証明されれば、なんとか国外に出られるという必死の試みだったわけだ。
だが同じ外国人でもこんな場合に日本国民であることは、まったくの無力であるという現実を知らされた。当時の日本には難民を受け入れる制度や法律さえなかったのだ。
同じような悲劇がいまのアフガニスタンで起きていることには同情を禁じえない。アフガニスタンも南ベトナムも、アメリカに依存してきた国家の悲劇なのである。
ではわが日本はこうした現実をまったくの対岸の火事として冷ややかにみることができるのか。私にはそうは思えない。
▲写真 タリバーンの首都侵攻を前に、アフガニスタン特別移民ビザ(SIV)を申請しにインターネットカフェに殺到する、米国の諜報機関や軍の通訳や翻訳者として働いていたアフガニスタン人たち。 出典:Photo by Paula Bronstein/Getty Images
なぜならわが日本も自国の安全保障、自国の防衛に関してはアフガニスタンや南ベトナムと同じように超大国アメリカにほぼ全面依存しているからだ。
もし、仮定の仮定のもし、である。アメリカが在日米軍を全面撤退させると宣言したらどうなるのか。日米同盟はもうアメリカの国益を利さないから破棄すると言明したらどうなるのか。
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