アフガニスタン崩壊の国際的な意味
Japan In-depth / 2021年8月20日 23時0分
こうしたアメリカ大使館や首都の空港での現地住民のアメリカに頼っての国外避難の必死の試みは1975年4月のベトナム戦争の終結時と酷似していた。南ベトナムの首都のサイゴン(現ホーチミン市)では当時、北ベトナム軍の軍事支配を恐れて、米軍のヘリや輸送機で脱出を求める大群衆が奔流のように渦巻いたのだ。
だからいまのワシントンではアフガン情勢をみて、「ベトナムの悪夢の再現」と批判する向きが多いのである。私自身も当時の毎日新聞ベトナム駐在特派員としてこのサイゴンの混乱や悲劇の一部始終を直接に目撃していた。
私はまたアフガニスタンにもアメリカ軍がタリバンを首都カブールから撃退した直後の2002年2月から1ヵ月ほど滞在していた。そのときにはタリバンの苛酷な支配がいかに厳しかったかを語る一般市民の声を聴き続けた。だから今回のタリバン復帰を恐れる人たちの心情もわかる気がする。
しかしこのアメリカ対外政策の明らかな失敗が今後国際的な安全保障などにどんな影響を及ぼすか、俯瞰的にみる考察も欠かせないだろう。ワシントンでの各界の識者などの意見も参考としながら、私なりに以下にまとめてみた。そこには当然、日本にとっての意味や教訓も含まれる。
まず、第一はアメリカの同盟関係への影響である。
アフガニスタン共和国はアメリカの正式な同盟相手とはいえないにしても、明白な防衛パートナーだった。アフガン駐在の米軍はアフガンの国家安全保障、国家の防衛に責任を果たすことを誓約していた。そして現実にその誓いを実行していた。
だが今回のバイデン政権の措置はその防衛誓約を一方的に破棄したのである。バイデン大統領は演説で「当事国の軍隊が戦う意思がないのにアメリカが戦うわけにはいかない」という趣旨を繰り返した。
このアメリカの態度はアメリカがアフガニスタンと同様に相手国の防衛への支援を誓約している諸国にも当然、懸念を生むことになる。現にワシントンでは「台湾はどうなるのか、韓国はどうか」という指摘が起きた。それらの地域や国の有事にアメリカは防衛行動をとるのだろうか。
その同盟相手には当然、日本も含まれる。もちろん戦後70年以上も堅持されてきた日米同盟とアメリカ・アフガン関係では大きな差異がある。だが自国ではない相手を自国が犠牲を払ってでも戦闘し、防衛する、という対外誓約の基本は変わらない。
第二は国際テロリズムへの影響である。
アメリカがそもそもアフガニスタンに軍事介入したのは自国がイスラム原理主義の国際テロ組織アルカーイダに襲われたことが理由だった。そのアルカーイダを自国内に留め、軍事訓練をさせ、多様な支援までしていたアフガニスタンのタリバン政権が国際テロの抑止、制裁という観点からアメリカの攻撃対象となったわけだ。
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