アフガニスタン崩壊の国際的な意味
Japan In-depth / 2021年8月20日 23時0分
そのタリバンがアフガニスタン全土をまた支配し、国家を運営するのである。タリバンはすでにアフガン共和国とアメリカ当局によって拘束されていたアルカーイダ関連のテロ容疑者5000人をも解放したという。
いまのタリバンの最高指導者たちの間にはこれまでのアフガニスタンでの戦闘で米軍の捕虜となっていた人物も複数、確認されている。タリバン政権で内務大臣を務めたカイルラ・カイルクワという人物はいまもアフガニスタンで活発に動いているが、一時は米軍に拘束され、米側の重要テロ容疑者専門のグアンタノモ収容所に長期間、拘留された。だが2014年にオバマ政権により米軍捕虜との交換で釈放されて、またタリバン中枢に戻ったという経緯がある。
同時にイスラムの反米世界では今回の事態はタリバンがアメリカを打倒した偉業として賞賛されるだろう。とすれば、アルカーイダの残党に限らず、反米志向のテロ組織が国境を越えて新たに大同団結する展望も考えられる。
だからタリバンの復権はイスラム原理主義のテロ集団にとってはアフガニスタンという国家や資源の回復だけでなく、全世界のジハード(イスラム聖戦)主義者の鼓舞を意味することになる。
第三はインド太平洋構想への影響である。
アメリカが日本やオーストラリアとともに推進する「自由で開かれたアジア太平洋」という戦略では、アフガニスタンがアメリカに協調的な存在か否かは大きな要素となる。
▲写真 アフガニスタンからの避難者の支援を行うオーストラリア軍(2021年8月17日) 出典:Photo by SGT Glen McCarthy/Australian Department of Defence via Getty Images
地理的にはアフガニスタンはインド太平洋地域に面してはいないが、中東から中央アジアにつながる地政学上の要衝としての比重は大きい。この地域でのアメリカの軍事行動にしてもアフガニスタンを実際の軍事拠点として自由に使える場合と、そこに敵対的な政権が存在する場合とでは、違いは巨大となる。
米軍にとってのこれまでのアフガニスタンはイスラム過激派だけでなく、ロシアや中国に関しても重要な情報獲得の拠点だった。そのアフガニスタンがタリバン支配となれば、当然、米軍の軍事戦略上の情報取得の機能は失われる。このことがインド太平洋戦略全体にも影響してくることが予測されるわけだ。
そのうえに大きいのは中国やロシアの動向だといえる。アメリカや日本のそもそものインド太平洋構想の狙いは対中抑止戦略だった。中国がインド太平洋地域で国際規範に反する活動を強めないことを目標としたわけだ。
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