捕虜にもなれなかった日本兵「戦争追体験」を語り継ぐ その5
Japan In-depth / 2021年8月25日 11時0分
「補給が足りなければ敵の物資を奪い取って利用せよ」
という方針を曲解して民間人から食料物資を略奪したり、暴行・強姦を働く者も後を絶たなかったのである。これはさすがにまずい、という判断からこの戦陣訓が起草されたわけで、本来の訓示は、軍旗を厳正に守ることで皇軍(日本軍)の威光を傷つけるな、というものであった。くだくだしく引用する紙数はないが、立派なことも書かれている。
しかしながら、当初の意図と違って漢文調の難しい、なおかつ長いものになってしまった上に、エッセンスだけを丸暗記させるという受験勉強式の教育をやらかしたものだから、捕虜になるくらいなら死ね、という教えだけが浸透してしまったものであるらしい。
要するに精神論に特化し、いかに勇猛な軍隊であろうが、実戦で捕虜が生じることは避けられない、ということを理解できていなかったのだろう。
たとえば、日米戦争における日本側の捕虜第一号は、なんと真珠湾攻撃の際に生じている。航空機による奇襲と並んで、2人乗りの特殊潜航艇による攻撃が企てられたが、出撃した5隻のうち1隻は、羅針儀が故障したため座礁。2人の乗員は、敵に機密が漏れるのを防ぐべく、時限爆破装置を起動させて脱出したが、指揮官の少尉が酸欠による失神状態で海岸に打ち上げられ、捕虜となったのである。操縦手は行方不明。おそらく溺死したものと思われる。
少尉は戦後帰国し、後にトヨタ自動車に入社するが、手記によれば、尋問された際、日本軍の空母や航空機の性能といった重大な機密を、あっさり自供してしまったという。
これは端的な一例で、前述のような事情から「捕虜になった場合の教育」をなにひとつ受けていなかった将兵は、尋問されると余計なことまでしゃべってしまい、結果的に日本軍の損害を増やしたのだ。
対する連合国側は、抵抗の手段を失った場合に捕虜となるのは恥ではなく、その時は他国の捕虜とも連携し、戦時国際法に反する扱い(拷問など)があれば強く抗議し、そして機会があれば脱走することまで奨励していた。これこそ『大脱走』などの傑作映画が生まれた背景である。
実は日本軍の捕虜たちも、脱走を試みた事例はあった。戦争末期の1944年8月にオーストラリアのカウラ収容所で起きた集団脱走事件など、後に「カウラ事件」として知られるようになる。
『あの日 僕らの命はトイレットペーパーよりも軽かった』というドラマが秀逸だ。
2008年に日本テレビ系列で放送されたもので、脚本・中園ミホ、主演・大泉洋、小泉孝太郎という取り合わせは、2007年にヒットした『ハケンの品格』というドラマの再来である(同ドラマの主演は篠原涼子)。
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