捕虜にもなれなかった日本兵「戦争追体験」を語り継ぐ その5
Japan In-depth / 2021年8月25日 11時0分
なんでも、中園さんの伯父にあたる方がカウラ事件の生存者で、その話を聞かされて以降、ずっと脚本の構想を温めていたという。ところが「恋愛ドラマの名手」と謳われた彼女が戦争ドラマの企画を持ち込んでみても、取り合うプロデューサーがなかなか現れなかった。そんな時、たまたま小泉孝太郎が脚本の草稿を読み、是非やりたい、と言って大泉洋にも声をかけ、売れっ子がもう一度組むと言うのなら……となって企画が実現したと聞く。ちなみに生存者と同道する若い女性(中園さん自身の投影と思われる)は、加藤あいが演じた。彼女も『ハケンの品格』で好演した一人である。
笑いを取るドラマではなかったが、小泉孝太郎扮する日本兵が尋問を受けた時のやり取りは、笑うしかなかった。部隊(所属)と名前を問われて、
「98部隊。名前は……長谷川一夫」
すると、日本語を話す情報将校の答え。
「天下のスター長谷川一夫は、君で8人目です。本当の部隊と名前を言いなさい」
「99部隊、榎本健一」
「喜劇の王様エノケンは5人目です」
いや、本当は笑いごとではない。日本軍とて諜報活動は行っていたが、前線の情報将校レベルで、得ている情報にここまで差があるとは。これこそが、精神論に凝り固まって補給や情報を軽視した日本軍の、敗残の姿であった。
▲写真 カウラ事件 日本兵脱走時に死亡したオーストラリア兵の埋葬(1944年8月5日) 出典:Australian War Memorial Provided under a Creative Commons Attribution-NonCommercial 3.0 Australia (CC BY-NC 3.0 AU) license.
南方よりもはるかに有名なのが、いわゆるシベリア抑留であるが、これについては、私はこれまで取り上げる都度、
「断じて捕虜ではない。戦時国際法を無視したソ連軍による残虐行為である」
と言い続けてきた。今もその考えは変わらないが、いずれにせよ我々戦後世代は、その実態をもっとよく知る必要がある。
自身も抑留体験者である五味川純平が『人間の条件』(岩波文庫他)という小説でその実態を描き出し、1959年から61年にかけて、三部作の形にて映画化された。余談ながら仲代達矢の出世作と称される。
まずは、この作品に触れるところから始めてはいかがだろうか。
(その1、その2、その3、その4)
トップ写真:1941年12月、真珠湾で燃えるアメリカ軍の戦艦USSウェストバージニア 出典:Bettmann/Getty Images
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