金正恩の狡猾な新「外貨収奪作戦」
Japan In-depth / 2021年10月15日 23時44分
朴斗鎮(コリア国際研究所所長)
【まとめ】
・コロナ禍による国境完全封鎖により、北朝鮮では外貨が急速に不足。
・外貨収奪の為、外貨使用を禁止したり、中央銀行が「トンピョ(金票)」発行したりしている。
・北朝鮮ではそれが外貨収奪の手段と認識されており、外貨保有者は警戒を強めている。
金正恩政権は、2019年2月のハノイ首脳会談決裂後、同年12月末に党中央委員会総会を開き、「核保有路線」を明確にし「自力更生での長期戦」で「正面突破」すると宣言して、経済分野を基本戦線と位置づけた。この方針で経済制裁を突破できると思ったのだ。
しかしその直後、新型コロナウイルスが全世界を襲った。金正恩総書記が国境を完全封鎖したことで「正面突破」の目論見は完全に外れた。金正恩を慌てさせたのは、経済の沈下もさることながら、核ミサイル強化と統治で欠かすことのできない外貨の急速な枯渇だった。
▲写真 平壌市内(2018年8月24日) 出典:Photo by Carl Court/Getty Images
1、新たな「トンピョ(金票)」発行作戦
金正恩政権に外貨獲得が緊急課題として浮上したが、国境封鎖の中での外貨獲得は、主に国内の商人や住民が保有する外貨の収奪しかない。しかし彼らからの外貨収奪を露骨に行えば反発は必至だ。
金正恩の脳裏には、2009年の「貨幣改革(デノミ)」で外貨使用を禁止した時の大混乱が浮かんだはずだ。
そこで金正恩政権は、貿易封鎖を「外貨収奪」に利用する方法を考え出した。外貨の使用を禁止し、市場(チャンマダン)で北朝鮮通貨しか使えないようにしたのである。ドルや人民元が使えなくなれば、当然外貨の交換率は大きく下落する。それをあたかも市場の需給によるものと見せて北朝鮮ウォンで買い叩こうとしたのだ。
この思惑通りドルや人民元は急落し始めた。昨年10月に1ドル=8000ウォン、1元=1200ウォンだった為替相場は、1ドル=5000ウォン以下、1元=700ウォン以下にまで下落した。
しかし、当局の思惑とは異なり商人や住民は外貨を持ち続けた。安くなった外貨を買い叩いてこっそりと買い集めようとした当局の思惑は完全に外れたのだ。
そこで今度は北朝中央銀行が発行した「トンピョ(金票)」による外貨収奪策を考えだした。
▲写真 北朝鮮で発行された『金票(トンピョ)』 提供:朴斗鎮
2、過去の「トンピョ(金票)」との違い
北朝鮮では以前にも「トンピョ(金票)」が発行されたことがある。1979年に朝鮮中央銀行が「外貨兌換券=パクントン(外貨と交換できるお金)」として初めて発行した(1988年9月から発行元を朝鮮貿易銀行に変更)。外貨を持っている人が北朝鮮で物品を購入するにはこの「トン票」と交換しなければならなかったため「パクントン」と呼んだのだ。
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