定年制廃止で変わる資産形成
Japan In-depth / 2021年10月16日 23時0分
年間500万円の勤労収入を5年間受け取るよりも、300万円を10年間受け取る方が、総額が大きくなるだけでなく税金や社会保険料などを考慮すると有利に働きます。
その分、資産からの取り崩しも少なくて済みます。それに無理をしないで働くことの良さも大いにあります。単純に継続雇用を受け入れるのではなく、どうやって長く働けるか、そのために自身のスキルアップや働き方を工夫する方法を考えることが大切です。
定年後も一定程度の勤労収入を長く得られることは、先の計算式から見ても、資産収入への負担が軽減されることがわかります。特に年金の受給ができるまでの間は、勤労収入は大きな力になります。その勤労収入を長く受け取ることができれば、70歳や75歳まで年金収入を繰り下げ受給し、年金受取額を増やすことができます。70歳以降の生活でも資産収入への依存度を下げる効果があります。
▲写真 朝の出勤風景 イメージ 出典:Photo by Iain Masterton/Construction Photography/Avalon/Getty Images
■ 安心して退職できることが企業の人事政策になる
社会の目線で見ても、高齢者に働き続けてほしいというニーズは高まる一方です。日本の労働人口(15歳から64歳の人口)は、2015年7728万人から2065年には4529万人へと、今後50年間で3000万人以上減少すると推計されています。そのため70歳定年、定年制廃止といった動きがあるのですが、一方で企業の側からは、すべての人を70歳まで雇用するわけにもいきません。
年齢で雇用条件が自動的に変わるような仕組みは、時代の要請に合っていません。2010年の平等法(Equality Act 2010)で、年齢による退職勧告制度を年齢差別として撤廃した英国でも、会社に“しがみつく”高齢社員の増加を懸念する声がありました。
そこで退職後の生活にある程度の安心感が得られるように資産形成を積極的に進めることが、企業の重要な責務になってきたとの指摘もありました。「定年制の廃止で福利厚生施策が人事政策へと変わった」といった指摘もあったほどです。
そうなるとこれまで以上に、現役時代の資産形成が重視されるようになるでしょう。定年制の廃止が、現役時代の資産形成への追い風になるというわけです。
■有価証券をもって退職を迎える人が増加、資産活用がより重要に
資産形成を確定拠出年金などの資産運用手段を使って作り上げる機運が高まれば、退職後の資産活用の考え方が一段と重要になってきます。
現金・預金だけをもって退職を迎える時代は、資産の取り崩しは「使いすぎないため」に定額で引き出すことが主流でした。しかし価格の変動する有価証券で資産を築いてくると、引き出す方法は定額だとリスクが伴います。いわゆる「収益率配列のリスク」と呼ばれるもので、思った以上に資産元本が毀損する懸念が出てきます。定年制の廃止機運は、巡りめぐって資産活用、すなわち新しい資産の取り崩し方を求めているようです。
トップ写真:イメージ 出典:pasja1000 /Pixabay
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