「血筋の価値」と近親結婚(上)王家の結婚について その2
Japan In-depth / 2021年10月20日 15時33分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
「林信吾の西方見聞録」
【まとめ】
・古代エジプト王家では純血を守るために近親結婚が行われていた。
・「絶世の美女」クレオパトラ7世は黒人だったと主張する人々が増えている。
・クレオパトラ7世の美貌と近親結婚の因果関係は考えられにくい。
今回のシリーズでは王家の結婚をテーマとしているが、前回「血筋の価値」という表現を用いた。
そうした価値観をもっとも極端な形で具現化していたのが古代エジプトで、なにしろ王家の純血を守るためとして、近親結婚が繰り返されてきた。
17世紀フランスの哲学者パスカルをして、
「クレオパトラの鼻。もしもそれがもっと低かったら、大地の全表面が変わっていたいただろう」
とまで言わしめた有名な女王がいたが、彼女の美貌も近親結婚の成果だと大真面目に唱える歴史家も、相当数にのぼったほどだ。
ただ、これには昔から異論も多かったことを指摘しておかねばならないだろう。
まず、近親結婚で美女が生まれる確率が高くなるなどとは信じがたい、と主張する人たちがいた。むしろ血が濃くなりすぎて障害を持つ子供が生まれるリスクがあり、だからこそ古来タブー視されてきたのではないか、という論理でもって、その説は補強されていたようだ。
その以前に、系図を見る限り、もっぱら近親結婚が行われていたという形跡は見い出せないといった、より説得力のある反論も開陳されている。ただしこれに対しては、象形文字で記された系図などどこまで信用できるか分からない、と再反論する人もいたと聞く。
しかし、2010年初頭に有名なツタンカーメン王のミイラをDNA鑑定したところ、まず確実に両親が近親婚(おそらくは姉弟婚)であるという結果が得られた。
これにより、近親結婚ありやなしやの議論は、一応の決着を見たのである。この時はまた、近隣に葬られていた全部で10体のミイラが鑑定されており、それまで謎とされてきた、ツタンカーメン王の出自である第18王朝の系図が完成した。伝承された系図がどこまで信用できるのか、という議論についても、ひとまず「系図だけでは分からないことが多い」との結論が得られたわけだ。
ただ、クレオパトラに関しては、なにぶん埋葬された場所さえ判然としないため(おそらくアレキサンドリア近郊だろう、といった程度のことしか分かっていない)、調べようがない。
ここで少し(例によって笑)余談となるが、この、世界的に有名な美女は、正確には「クレオパトラ7世」である。
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