時代劇の灯は消えるのか(上)年末年始の風物詩について その1
Japan In-depth / 2021年12月17日 10時14分
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・年末の風物詩として親しまれ、『忠臣蔵』と呼称される「赤穂事件」。
・儒教に造詣が深く、「仁政」「文治」へと舵切りを行った5代将軍・徳川綱吉。
・武士世界にも格差社会が存在し、今で言う「上級国民」を批判する風潮が存在した。
大河ドラマの放送が始まると、正月も明けて、いよいよ新年のスタートだ、という気分になる。『忠臣蔵』のドラマが放送されると、今年も終わりだな、という気分になる。そして、『水戸黄門』を見ると、まだやってるのか、という気分になる。……単なる判じ物だが、昭和世代にとって、時代劇がどのようなポジションを占めていたか、なかなかに言い得て妙ではないかと、私には思えるのだ。
しかし、それも今や過ぎ去った時代の話で、1969年以来、延々と続いた『水戸黄門』も2011年暮れ、ついに打ち切られた。
大河ドラマの話は稿をあらためさせていただくとして、師走に『忠臣蔵』(実際のタイトルは様々だが)が放送されなくなってから、やはり10年近く経つのではあるまいか。
どうして『忠臣蔵』が年末の風物詩にまでなっていたのかと言うと、クライマックスの吉良邸討ち入りが師走の話であった、という理由もあるが、ドラマを作る側からすれば、オールスター・キャストが組みやすかったからだろう。つまりは、数字(視聴率)が期待できる。
ところが、バブル崩壊後の長い不況が続く中で、これがネックになってしまった。オールスター・キャストを組めばギャラの総額もかさむ。さらには「松の廊下」から「吉良邸討ち入り」まで、一場面のために大がかりなセットを組まなければならない。
そもそも、いや、今更ながらではあるが『忠臣蔵』という呼称自体、江戸時代に書かれた芝居のタイトルから来たもので、歴史事典やしかるべき文献には「赤穂事件」としか書かれていない。芝居に描かれた数々のエピソードも、ほとんど後付けのフィクションである。
私自身、この連載で『忠臣蔵』を取り上げたことがあるが、要はテロリズムに過ぎないと断罪した。今もその考えは変わらないし、あらためてその議論を繰り返すこともしないが、事件の背景としてあった、徳川五代将軍・綱吉の治世について、今回は少し見ておきたい。
徳川綱吉の名は、しばしば「生類憐れみの令」とセットのように語られる。なんとなく、
「人間よりも犬を大事にした」
というイメージをお持ちの方もおられるのではないだろうか。それでは、バカ殿を通り越して本物のバカだろう。
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