時代劇の灯は消えるのか(上)年末年始の風物詩について その1
Japan In-depth / 2021年12月17日 10時14分
この法令がいつ、どのような理由で発布されたかは、実は今に至るも「諸説あり」の状態である。単に「お犬様をいじめるな」という単一の法律ではなく、捨て子の保護とか、病気になった牛馬もみだりに殺処分してはならないとか、もろもろの諸法令の総称なのだ。
徳川綱吉という人は、儒教に造詣が深く、武力と諜略で天下統一をなしとげた徳川幕府を「仁政」「文治」へと作り替えようとしていた。力こそ正義だという「武断」の「時代に終止符を打とうとした、とも言える。
それともうひとつ、江戸のみならず諸藩の城下町において、野良犬はもともと大事にされていた。不思議に思われるかも知れないが、多くの記録が存在する。
どういうことかと言うと、ゴミ処理のシステムなどまるで未発達だった当時は、残飯などの生ゴミがすぐに腐敗して、感染症の原因となる。ワクチンなどなかった当時、感染症の脅威は今とは比べものにならなかった。
したがって残飯をあさる野良犬は、環境衛生上、有益な存在と考えられていたのである。そもそも、野良犬と言っても、当時、ペットを飼える人の数など限られていたのであって、町内というコミュニティの中で人間と犬が共存しているのは、ごく当たり前の光景だった。
しかしその一方では、犬でもって刀の試し切りをするような手合いがいたことも、また事実である。竹刀や木刀でもって、道場で稽古するだけでは実戦の勘が身につかない、というのだろう。
それが「忠臣蔵」とどういう関係があるのか、と思われたかも知れないが、煎じ詰めて述べると、野良犬を斬っても罰せられるという「太平の世」は、武士階級の一部にとっては相当なストレスになっていたはずで、そこから討ち入りという派手な騒ぎを起こした連中を、「義士」「武士の鑑」と賞賛する空気が生じたのだと考えられる。
それと、もうひとつ。
この騒動はもともと、江戸城内で播州赤穂藩主・浅野内匠頭が、吉良上野介を斬殺しようとした刃傷沙汰が発端で、これまたドラマなどでは、吉良が一方的に悪く描かれることが多い。
朝廷からの勅使を接待する役目を浅野内匠頭が命じられ、そうした儀式に通じた高家の筆頭である吉良上野介が指南役となったのだが、付け届けが少なかったことに腹を立てて色々と意地悪をしたため、ついには……というのが「お約束」だ。
これも史実は大分異なるので、上野介が内匠頭を責めた具体的な経緯とは、勅使を迎える手配にしては、浅野側の手配りがあまりにケチくさいので、
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