時代劇の灯は消えるのか(中)年末年始の風物詩について その2
Japan In-depth / 2021年12月19日 0時56分
だからこそ反体制テロと言うべき討ち入りが、太平の世に武士らしい振る舞い、などと賞賛されたことは前回述べたとおりだが、徳川光圀という人も、禁令を無視して肉食を楽しんだとされている。
将軍綱吉に犬の毛皮を献上した、という逸話もあるが、これはおそらく後世の創作だと考えられている。ただ、そうした逸話が広まること自体、綱吉の治世に対する当てこすりであったと考えて、まず間違いはないだろう。
もともと光圀という人は新奇なことが好きで、日本で初めてラーメンを食べたという逸話まであるほどだ。最近の研究では、ラーメンはもっと古くから一部の寺院で食されていた、とする説が有力になっているとも聞くが、いずれにせよ、ある意味で非常に息苦しい封建社会が確立して行く時代にあって、将軍の意向に逆らって生きる人たちが脚光を浴びたことそれ自体は、さほど不思議なことではないと私は考える。
とは言え、徳川光圀の場合、家康直系の御三家(紀州・尾張・水戸。光圀は家康の孫)の当主であったから、そのような振る舞いが許されたのだというところまで考え及べば、また別の視点も生まれてくるのではあるまいか。
以下はまあ、余談と思っていただいて結構だが、ドラマでは水戸黄門の肩書きは「先の副将軍」とされている。徳川幕府に副将軍という役職はないが、御三家の中で最も江戸に近い水戸藩は、参勤交代を免除されていた。そのため光圀は後半生をもっぱら江戸で過ごし、幕政にも影響力を持つと見なされたことから、俗に「天下の副将軍」と呼ばれたらしい。
実際に将軍を補佐して幕政を動かしていたのは、老中・奉行といった地位にある人たちで、今で言う高級官僚である。
また、江戸時代の身分制度について「士農工商」と学校で習った人も多いと思うが、これも厳密に言うと事実とは異なる。
武士の世の中に根付いていた価値観に照らせば、公家を別格として、人間は「武士とそれ以外」とに区分される。
武士身分以外の人は、江戸や大坂など都市部で暮らしていれば「町人」、地方で暮らしていれば厳密な職業区分などなく(つまり漁業や林業で生活していようとも)一様に「百姓」と呼ばれていた。
最近では、百姓という表現は農家に対する蔑視であるとして、マスメディアなどでは避ける傾向があるのだが、本来は「天下の人民」といったほどの意味であったのだ。姓という漢は現代日本語では、もっぱら「せい」と読んで名字と同義語になっているが、古い日本語では「かばね」と読んで地位や職業を意味していた。百の姓、すなわち様々な職業の人たち、と述べれば、私の言わんとするところがお分かりいただけるだろう。
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