窮地に陥るバイデン外交
Japan In-depth / 2022年1月21日 15時45分
こうした国際情勢は戦争の可能性も含めてワシントンに近年にない危機感を生んでいるといえる。
この危機の原因をバイデン氏の対外姿勢に帰する指摘の典型は国際安全保障専門家でハドソン研究所特別研究員のウォルター・ラッセル・ミード氏が1月12日に発表した論文だった。
ウォールストリート・ジャーナルに載った同論文は「敵性勢力はいかにバイデン外交政策をみきわめているか」と題され、ロシアと中国がバイデン大統領の対外政策の軟弱さと矛盾をみて、軍事攻勢を強めても強固な反発はないと判断しているのだ、という趣旨だった。
確かにバイデン大統領はプーチン大統領との会談でもロシアがウクライナに軍事侵攻しても米側の対応は経済制裁に留まると言明していた。ウクライナへの軍事支援も一方的には実施しないという自主規制を示した。
バイデン大統領は就任1周年を直前にした1月19日の記者会見では「ロシアがウクライナに軍事侵攻する兆しがさらに強くなったが、もしロシアがそうすればアメリカ側はロシアにとって重要な銀行口座を凍結する」と述べた。軍事侵攻への抑止や反発が銀行口座の凍結だというのだ。おどろくべき弱腰だといえよう。
中国に対してもバイデン大統領は「競合」とともに「協調」をうたう。「衝突は求めない」と当初から軍事抑止の自粛を示す。
ミード氏はバイデン大統領の対外姿勢の基本に対して「人権と民主主義、そして同盟諸国との連帯という標語、さらに実効の少ない経済制裁を唱えるだけでは中国やロシアの軍事攻勢を抑えられない」と批判するのだ。
同様の指摘は地政学者で「外交政策調査研究所」研究員のロバート・カプラン氏も1月中旬に発表した論文で主張した。「いま修正帝国主義を目指す中国とロシアの膨張阻止には軍事的な抑止が必要となる」というのだ。両国とも戦争自体を求めるわけではないから、軍事力依存へのコストがあまりに高くつくという展望がわかれば軍事膨張を抑制する、との主張だった。
バイデン大統領の軍事忌避へのこうした批判は超党派となり、民主党支持のワシントン・ポストまでが「アメリカはウクライナと国際法を強固に守れ」という社説を掲げた。軍事抑止の選択肢を除外するな、という主張だった。
アメリカ議会でもこの種の主張は超党派の広がりをみせ、バイデン大統領も在任の2年目、対外戦略の基本修正を迫られる見通しも生まれてきた。バイデン大統領は外交面ではまさに窮地に陥ったのである。
トップ写真:科学技術顧問評議会のメンバーと会談するバイデン米大統領(2022年1月20日、ワシントンDCのアイゼンハワー行政府ビルの南裁判所講堂で) 出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images
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