キエフも陥落できぬロシア、北海道に攻め込む力なし
Japan In-depth / 2022年3月15日 7時0分
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・ウクライナ侵攻によりロシア脅威論が再燃している。
・ロシアには日本に攻め込む余力はない。
・むしろ北海道の陸自戦力は削減すべきである。
ウクライナ侵略によりロシア脅威論が再燃している。平和への挑戦、帝国主義的行動、膨張主義への警戒感が高まった結果である。
日本においても北方脅威論が再燃する兆しが見える。
すでに右派紙には北方警戒論が出現している。夕刊フジWEB版の『ZAKZAK』では飯田浩司氏が北海道増強論を主張している。「中国を念頭に置いた南西諸島方面への防衛力のシフト」は「ウクライナ侵攻で完全に過去のものになりました。」と明言し、その上で陸自を筆頭とした北海道での戦力増強を主張している。*1
また陸上自衛隊も尻馬に乗ろうとしている。トップの陸幕長はロシアについて「極めて強い危機感を持って見ている」と述べた。これはロシア脅威提示で北方重視つまり陸自増強につなげる着意からの発言である。まずは組織利益の追求である。*2
しかし、これらの主張はまともに取り合うべきではない。
なぜならロシアには対日戦を戦う能力はないからだ。その点で北方や陸自増強は不要である。また最優先すべき対中対峙、なかでも最重要な海空戦力比の改善に相反する悪手である。
■ 輸送力の限界
ロシアは北海道を侵略できるのだろうか。
その答えは簡単だ。モスクワから700㎞先のキエフも陥落させることができないロシアに、7000㎞離れた北海道に攻め込む力はない。
▲写真 第一次上海事変でナショナリズムの高揚により奮戦した十九路軍(1932年、上海) 出典:World War II Database
実際には距離以上の困難を伴う。モスクワからキエフへの侵攻は比較的容易である。交通網が発達した欧州での戦争であり経済・産業重心のヨーロッパ・ロシアにも至近である。対して、北海道への侵攻は困難である。交通網が未発達な極東アジアでの戦争となるからだ。
その厄介さは距離差の10倍どころではない。シベリア・バム鉄道の東行輸送力限界、貧弱な極東経済、弱体な艦隊と上陸戦能力の欠如といった問題がある。その上、相手は米国と軍事同盟と強力な海空戦力を保有する日本である。
■ 北方領土の全滅予定部隊
これは冷戦時代からそうであった。「弱体化した今のロシアにはできない」問題ではない。
ソ連最盛期でも無理である。沿海州はソ連経済圏の限界線であった。その先は交通網で未接続であり経済圏の外であった。
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