星槎グループ創業者・宮澤保夫さん死去 東日本大震災、被災地支援に尽力
Japan In-depth / 2022年3月25日 20時11分
当時、南相馬市の住民の多くは避難しており、周辺の店は開いていない。旅館が提供したのは朝ご飯だった。星槎グループの先生方は、食事、水、ガソリン、生活雑貨を何処からか調達してきた。我々は、ロジをすべて星槎グループの先生方にお世話になった。
宮澤会長は、星槎グループの先生たちに「被災した方から我々が頼まれた事に対しては全力でやれ。「それはできません」って簡単に返事するな。」と繰り返していた。
この姿勢は、我々にも同様だった。その後、相馬市・飯舘村・川内村などで健康相談会や、相馬市・南相馬市での放射線説明会を行ったが、そういった活動への協力を依頼しても、「そうか、それは本当に良いことだね。絶対に我々は何があっても全面的に支援するからね。」と約束してくれた。そしてその言葉通り、星槎グループの皆さんにロジ面など多大なご支援をいただいた。
宮澤会長は、震災・津波で傷ついた子どもたちの支援、カウンセリングに協力したいと考えていた。子どもたちの精神的障害(PTSD)や教育現場の混乱は、相馬市より南相馬市の方が遙かに酷かった。しかしながら、南相馬市役所や南相馬市の教育委員会との調整がつかなかったようだ。星槎グループの活動は、最終的には相馬市に集約していく。
4月中には東大医科研の私たちの研究室と共同で、相馬市生涯学習センターにオフィスを設けた。そして、ここを拠点に、星槎グループは相馬市教育委員会と連携して、相馬市内の小中学校の生徒のカウンセリングを始めた。特に津波被害の大きかった4つの小中学校を重点的にケアした。その中心は、カウンセリングの専門家である安部雅昭先生と吉田克彦先生だった。安部先生は、2011年だけで生徒103件、教師85件のカウンセリングをこなした。彼らの活動は現在も続いている。
星槎グループの相馬市でのもう一つの活動は、通称「星槎寮」と呼ばれる宿舎の運営である(写真2)。2011年4月から、相馬市の中心部に位置する、キッチン・ユニットバス・和室が数部屋ある一棟を、星槎グループが運営してくれることとなった。
星槎グループの事務長である尾﨑達也氏が、「寮長」に任命され、合宿所の管理を取り仕切きることとなった。坪倉医師は、尾崎寮長の元、ここの住人となった。そして、星槎寮を拠点に活動を拡げていった。
多い時には一度に男女あわせて20名近くの医師、学生たちが、入れ替わり立ち替わり宿泊した。この頃から、復興需要が高まり、相馬市内の民宿やホテルはいつも満室となっていた。震災後、各地から定期的・不定期に相馬を訪れる医師達やボランティアの学生達にとって、宿泊先の確保は頭の痛い問題だったが、合宿所があるお陰で、「宿が取れないから参加できません」という事もなかった。日中はオフィスで、夜は合宿所での深夜までのディスカッションや飲み会を通じて、さらにネットワークを深めることができるようになった。このようなネットワークが、相馬市の復興を支えていく。
これが宮澤会長の生き方だ。彼は具体的な行動をもって、如何に生きるべきかを示してくれた。私は、彼から多くを学んだ。いくら感謝しても、しすぎるということはない。ご冥福を心から祈りたい。
▲写真1 ホテル扇屋の前にて。市中の店は殆どが閉店していた。唯一、営業していた焼き肉屋で食事をとったあと、星槎グループのスタッフがコーヒーを入れてくれた。人通りはなく、車も通らなかった。左から山越康彦氏、三橋國嶺氏、宮澤保夫会長。坪倉正治氏、一條貞満氏(2011年4月12日) 提供:星槎グループ大川融氏
▲写真2 2011年5月4日、星槎寮での食事光景。食事は星槎グループの先生方が準備してくれた。右から宮澤会長、左端が筆者。
トップ写真:2011年7月16日、福島県川内村の健康診断会場にて。左から筆者、宮澤会長(筆者提供)
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