日本外交の診断 兼原元国家安全保障局次長と語る その5 経済産業省の大罪とは
Japan In-depth / 2022年3月29日 14時20分
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・かつて通産省の代表は「省内に日米同盟を信じる人はいない」「対中ODAを絶対やめない」と述べた。
・通産省の安全保障リテラシーの欠如、危機意識のなさが招いた大失敗が日米半導体協定。
・対中政策は「安全保障」「ビジネス」「自由・人権」のバランスをうまく取ることだが、日本政府の優先順位は明確でない。
古森義久 日本の中国へのODA(政府開発援助)が軍事インフラ建設に使われている事実を知った私は、20年前に、対中ODAをやめるべきだ、という記事を書きました。そうしたら、当時の通産省の代表から声をかけられました。一対一で3時間ほど話したのですが、「対中ODAは絶対にやめない」「通産省のなかに日米安保を信じている人はいない」と言われたんです。
兼原信克 当時の日本の官界では、通産省(経産省)、大蔵省(財務省)、財界からなる「経済チーム」と、外務省、防衛庁(当時)、自衛隊、警察からなる「安全保障チーム」で戦略観が分れていました。経済至上主義で動く経済チームの頭の中には、経済と安全保障が密接に結びついているという発想自体がなかったのです。
当時の通産官僚は「自衛隊は何個師団あるのか」「護衛艦隊は何艦隊あるのか」、もっと言えば「在日米軍基地はどこにあるのか」さえ知りませんでした。安全保障に関してはまったくリテラシーがなかった。
古森 なぜ彼らの頭の中に安全保障という概念がないのか。
兼原 国会で安全保障に関する答弁をすると、野党やリベラル系の新聞からコテンパンに叩かれるからです。だから安全保障は外務省と防衛庁に押しつけて、自分たちは財界の幹部と西側世界の内側にこもって、高度経済成長を謳歌していた。経済戦争での敵は、ソ連ではなくアメリカだったのです。
そんな通産省の危機意識のなさが招いた大失敗が半導体協定です。1980年代、アメリカは世界の半導体拠点を日本に奪われることを危惧し、日本市場における外国製半導体シェアを20%以上に引き上げる目標を定めた協定を無理やり締結させた。
写真)半導体が使われているタブレット端末の回路基板(イメージ)
出典)Photo by Justin Sullivan/Getty Images
古森 半導体協定が話題になった当時の日本政治は、総理大臣が一年ごとに代わるほど荒れていました。ということは、半導体協定を仕切っていたのは官僚です。いま半導体不足が騒がれていますが、なぜ当時の通産省は半導体産業をやすやすと渡してしまったのか。
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