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日本外交の診断 兼原元国家安全保障局次長と語る その6 日本学術会議が日本の防衛を嫌う

Japan In-depth / 2022年3月29日 18時0分

 


 しかし、政治サイドにも問題があります。日本学術会議を問題にした総理大臣は、吉田茂氏、中曽根康弘氏、安倍晋三氏、菅義偉氏だけです。あとの総理は見て見ぬフリをしています。これではメスが入りません。



写真)菅義偉首相(当時)は日本学術会議の新会員候補6人の任命を拒否した。


出典)Photo by Carl Court/Getty Images


古森 4兆円という科学技術予算は、他国に比べて少ないように思えます。


兼原 アメリカ政府は20兆円の研究開発予算を出していますが、そのうち6割の12兆円は国防総省に回ります。国防総省はその予算で、お抱えの超一流の研究所で研究するだけでなく、研究者にベンチャー資金を提供し、まずは市場で新しい先端技術を成熟させます。モデルナのワクチンはこうして生まれました。


 このベンチャー資金を担当するのがDARPA(ダーパ)(国防高等研究計画局)です。イギリスにも同様の仕組みがあります。マーケットを利用するというのは、いかにもアングロサクソンらしい手法ですが、大成功を収めています。


 アングロサクソン系の国では「科学によって戦争に勝つ」という意識がとても強い。残念ながら敗戦国となった日本は、戦後、新たに登場した宇宙、サイバーの分野で決定的に遅れています。



写真)DARPAが主催する災害救助用ロボット競技大会に参加する準備を


進めるバージニア工科大学の学生チーム(2015年4月)


出典)Photo by Chip Somodevilla/Getty Images


古森 日本はAUKUS(オーカス)(オーストラリア、イギリス、アメリカによる軍事同盟的連携)にも招かれませんでした。


兼原 最先端科学を安全保障に役立てるのがAUKUSの目標です。科学技術政策と安全保障政策が遮断されている日本がAUKUSに招かれるはずがありません。


 インターネットもアメリカの国防総省から生まれました。そこから生まれたアップルの時価総額は300兆円です。日本のGNP(国民総生産)は500兆円、東証の株価総額は700兆円ですから、日本が安全保障と科学技術を切り離した結果、いかに大きな機会を失ってきたかがわかります。産業技術も軍事技術も廃(すた)れ、企業で働く従業員の給料も上がらなければ、生産性も上がらないような国になってしまった。私は経産省の官僚に、国家安全保障の主力官庁だという自負を持って、安保産業政策に取り組んでほしいと思います。


古森 この経産官僚への警告は官僚組織内で長年、活動してきた兼原さんの経歴を考えると、非常に重みを感じます。


兼原 さきほど、古森さんは「中国の軍事事情を研究する学者が少ない」とおっしゃられましたが、その原因の一つに、日本に防衛戦略がないことがあげられます。


 


(最終回・その7につづく。その1、その2、その3、その4、その5)


●この対談は月刊雑誌WILLの2022年4月号からの転載です。


トップ写真)日本学術会議総会(2019年10月17日)


出典)内閣府ホームページ


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